投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

長い夜
【大人 恋愛小説】

長い夜の最初へ 長い夜 2 長い夜 4 長い夜の最後へ

長い夜 (一)-3

「何か飲むか?お茶かコーヒーくらいしかないけど」 佐伯は事務所の冷蔵庫を開けながら遼子に言った。
「あ、いえ。すぐに失礼しますから。本当に・・」 さすがに気を取り戻した遼子は、自分のバッグや靴やコートを
かき集めるようにして急いで身支度しながら、改めて時計に目をやった。
午前4時を半分近く過ぎている。
「今更急ぐこともないさ。僕ももう片付けるだけだから送っていくよ」
「いいえ、そんな。タクシーひろいますから」 遼子はバッグをしっかり抱きかかえて立ち上がろうとした。
「今頃じゃ捕まえるの難しいな。いいから、言うこと聞きなさい。」 
優しい表情しか見せなかった佐伯が叱るように言うと、遼子は何も言えなくなった。
「そうだ。君、飯もろくに食ってなかっただろ。僕も腹が減ったな・・・今頃だと・・ラーメン屋くらいかな」
そういいながら、デスクの上の書類をまとめて片付けるとカバンに入れて、コートを羽織った。

遼子は佐伯の言うままに、車に乗り、途中ラーメンをご馳走になってアパート近くまで送ってもらった。
何度も何度も侘びと礼をいう遼子に、このことは二人の秘密で会社関係には一切知らさないようにと釘をさされた。

アパートについた遼子は目覚まし時計がまもなく六時になろうとしているのを見て急いでシャワーを浴びた。
ゆったりと湯につかり、さっきまでのことをリプレイしようと思い巡らすが、何もかもが夢の中の出来事のようで
ただ、倒れた時のふわりとした温かさ、心地よさ、そして混乱した中でも佐伯の大きな手が
遼子の頭を撫ぜて、よく頑張ったと言ってもらったこと。
それだけが記憶のすべてで、夢のすべてのようだった。

どれくらい眠ってしまっていたのか、11時過ぎに記憶をなくし、目覚めたのが4時過ぎだとすると5時間を死んだように寝ていたらしい。
不思議なくらいスッキリした気分で遼子は出勤の支度をした。
もうすでに今日は始まっている。
改めてお礼の電話を入れるべきだろうかと迷っている間に、日常は遼子を飲み込み、流し、追い立ててしまっていた。


長い夜の最初へ 長い夜 2 長い夜 4 長い夜の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前