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長い夜
【大人 恋愛小説】

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長い夜 (一)-2

凛として・・?の意味が分かったのはしばらくたってからだったけれど
佐伯の落ち着きある雰囲気と柔らかい笑顔はとても印象的に目に焼きついていた。

すべての招待客を見送ったのは11時すぎ、高橋は二次会グループを案内して一足先に出た。
この季節、一つの区切りができる最終イベント。
12月に入るとどこもかしこもイルミネーションで騒々しく飾られる街。
今年も遼子にはクリスマスも年末年始もない。
ただ、始まっては終わる仕事をひとつひとつこなしていくだけだ。
やれやれと空を見上げた。
飾られた都会には夜がない。星を探したくて見上げたままキョロキョロしていると
まさしく目が回ってしまった。
(あ・・ヤバイ・・貧血か・・た・お・れ・る・・・。)
スローモーションに崩れる自分の体が
コンクリートに打ち付けられるはずの衝撃を抵抗のすべもなく受け入れようとあきらめたその時
ふわりと身体が温かい何物かに包まれたような気がした。
しかし、目が開かない。気が遠くなる。
(あったかい・・気持ちいい・・眠い・・)遼子はそのまま意識を失った。

(ん・・・ん?私・・どこ?何?どうして・・・?)
ふと目覚めた遼子は自分の目に移る環境を飲み込めないで困惑した。
ガランとした空間、寒くはない。暖房は効いてるようだがどこか部屋という感じではない。
横になっていたのはベッドではなくどうやらソファのようだった。
薄暗いなかで微かな明かりの方を見ると大きな背中が見えた。遼子に背を向けて
デスクに向かっているようだ。
遼子は焦った。記憶を急いで取り戻してみる。
(パーティ会場を出て、空を見上げて・・・それから・・・あっ・・。)

ガバッと起き上がった遼子に気づいて、大きな背中が遼子のほうに向き直った。
「気がついた?気分は大丈夫?」
声の主に覚えはない、向かい合った顔もデスクのスタンドライトの影になって見えなかった。

大きな背中の主は立ち上がり近づいてきた。
「何か飲み物でも持ってこようか?」
「・・・あ、あ、あの・・・」 名前が出てこない。
(確か、名刺をもらった西中建設の・・微かに見える顔に見覚えがあった。
「佐伯です。パーティでご挨拶した西中建設の者です」
遼子はさらに混乱した。まずいことになったのではないか、会社に関係するややこしいことになるのではないかと。
「心配しないで。ここは私の事務所です。パーティでの酔いを醒ましてから仕事が残ってたので事務所に戻ろうと
したところ、上をキョロキョロしている人がいるなと思ったら君で、あっという間にゆっくりと倒れかけて急いで駆け寄って
無事にキャッチしたと思ったら、ぐーぐー寝てしまって・・・」
混乱する遼子を落ち着かせるようにゆっくりとハッキリと説明しながら佐伯は遼子の隣に腰掛けた。
「ぐーぐーって・・そんな え? 私、ああ、うそ! どうしよう・・!」
佐伯の説明でさらに混乱していく遼子を佐伯は両肩を掴んで強く揺さぶった。
「りん!落ち着け!」その声は強いが笑みをたたえていた。
遼子は職場でいつも呼ばれている「りん」という呼びかけにハッとした。
「あ・・すみません。なんだか私大変ご迷惑をおかけしたみたいで。本当に申し訳ありません!」
深々と頭を下げる遼子の頭をクシャっと掴みながら
「よっぽど疲れてたんだな。よく頑張ったな。いいイベントだったよ」と佐伯が優しく言った。

ブライダル専門の装飾用品、ドレスは当然のこと式場や旅行会社との連携も持ちながらの
時代の流れにも敏感に反映される業界が、見た目の華やかさや美しさとはうらはらに
どれほど過酷な仕事かも、イベント会場の提供を含め長い付き合いをしている佐伯にはよくわかっていた。
そしてそんな佐伯の一言が遼子の疲れきった心に豊かに満ちた。


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