逃げ出しタイッ!?-19
「……あ、あぁ」
「ん、あぁ」
雅美は我も忘れて彼にしがみつく。
「はぁ、あぁぁぁ」
「んぅ、くぅ」
しばらくつっぱたままの悟だが、急に糸が切れたかのようにへたれこみ、そのまま雅美に覆いかぶさる。
「はぁはぁ、やべ、気持ちよすぎ……」
絶頂に達した悟は満足げに荒い息を吐き出している。
「んぅあ、はぁはぁ、なんで、こんなこと……に、うくぅ」
それは雅美も同じらしく、破瓜の痛みも忘れて覆いかぶさる男の肩に噛み付き、身体を駆け巡る快楽に耐える。
自慰で絶頂を覚えることはこれまでもあった。けれど、最初の一回で懲りた。理由は思わず出てしまった声のせい。
彼女はイク時、ボリュームを調節しないらしく、その声に驚いた親と妹がやってきて、必至にごまかすという苦い五分を過ごした。
それ以降は少し気持ちよくなる程度に抑えるか、誰もいないときだけにしていた。
今日はそれができず、代わりに男に噛み付くことで我慢するが、相手は愛撫と勘違いしたのか、髪を撫でてくる。
そして、それがむしょうに腹が立つ。
どこか安心させられるようで……。
――違うもん。これは、終わったからの安心だもん。だから、全然違うの?
――終わった。何が? セックス? 違うよ。これはレイプだもん。でも、終わったって事はどうなの? だって、あ、やだ、なんか変な感じがするよ。どうして……?
「ちょっと、田辺君、ゴムは? コンドームしてた?」
「してねえよ。なんでそんなのしないといけないんだよ。それにお前だって生のほうが気持ちいいだろ?」
「そんな、だめだよ、お願い離れて、私、子供なんかできたら、やだ、中に出てる!
早く離れてよお!!」
先ほどまで絡めていた指先がそれを拒み、足で抱く格好になっていたせいか、下半身ではねたところで男のそれが前後するだけ。
「なんだよ、つめてえな。ま、いっか、気持ちよかったし」
ようやく立ち上がる男は亀頭の先からまだカウパー腺液をたらしており、白い濁りも見えた気がする。
「やだ、だめだよ。私危険日かもしれないのに……」
まだ笑っている膝で無理やり立ち、陰唇を大きく開く。
「何か洗うもの、ない? 何かないの……」
ふらつく足取りで手に取るのは水筒。中にはつめたいお茶を入れておいたから……、
「お願い出て、出てってよ、ねえ、お願いだってば」
半狂乱になりながら自らの性器にお茶をかけ、ぐちゃぐちゃとかき回す雅美。ぬめり気のあるそれは足が遅いせいか、指で掬いとってようやく出る程度。
「はは、コーラで洗ったほうがいんじゃね?」
「それホント?」
「あ、ああ、昔誰かが言ってた」
ぐわっとつかみよる雅美の迫力に負けた悟は、少々ひき気味になりながら答える。
「そう、わかった」
雅美はそれだけ言うと、お茶と行為の残滓も気にせず、ジャージを羽織り、手近にあった荷物だけ持ち出し、部室を出る。
「はは、バカな奴っすね」
雅美が居なくなった部室で誰に話しかけているのか?
それは今の彼女の耳には届かず、またそれどころでもないのだが……。