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『Summer Night's Dream』
【青春 恋愛小説】

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『Summer Night's Dream』その4-6

「陽介は、じいちゃんの生きた時代を知らんから分からんだろうが、あの時はとにかく大変だったな」


「うん」


昔の話はじいちゃんの口癖だったから、よく聞かされた覚えがある。食うものがなくて、毎日お腹を減らしていたこと。訓練の授業が嫌で、隙を見ては逃げ出していたこと。米軍の兵士から貰ったチョコレートを隠れて食べていたこと。それを先生に見つかって、頬が腫れるまで叩かれたこと。


「とにかく生きることが必死だった。明日、もしかしたら死ぬかもしれない。そんなことを思いながら必死に喰いつないでたからな。
だから、後悔なんてしてる暇なんてなかった。そんな事より先の事を心配する方がじいちゃんにとっては重要だったんだ。
昨日より今日。今日より明日だ」


一日の安全が保証されているということは、どんなに幸せなことか。
じいちゃんはそう言った。
陽介には知るべくもないが、そんな貧しい日本が確かにあって、じいちゃんはその時代を生きた人なのだ。


「つまり、考えている時間が惜しいほど、毎日切羽詰まってたんだね」


「おう」


とじいちゃんは感慨深げに頷いて、それからまた戦後の話を始めた。
結局、その後は寿司屋に住み込みで働いたとか、そこでばあちゃんと出会ったとか、いつかの酒の席で聞いた内容だったので聞き流した。
っていうか、同じことばかり話すので飽きた。
ひとしきり騒いだ後、酒が呑みたくなったとか言って、じいちゃんは部屋を出て行った。


ベッドの上で寝る間際になって、陽介は自分の部屋の天井を見上げながらじいちゃんが最後に言った言葉を思い返していた。
正直、後半はどうでもいい苦労話が続いたが、その締めくくりにポツリとじいちゃんがこぼした言葉。


『ま、じいちゃんも長いこと生きてきた』


『その中で、もしかしたら一つや二つは、忘れ物をしてきたかもしれん』


何となく心のどこかに引っかかっていた。

その人もそうだったのだろうか。
この世に残した忘れ物を取りにきたことを、さくらに伝えようとしていたのか。

今の段階では、それが精一杯の結論だった。

だけど事態は、思っていたよりも早く進展することになる。


翌日。


さくらが、夢の続きを見た。


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