所謂恋愛喜劇2-4
「………あたしなんかを浚ったって、武君が来てくれる筈ないよ……」
三人組から目を逸らし、茜は呟く。
何しろ、あんな別れ方をしたのだ。武はきっと怒っている。
茜はそう思っていた。
「…ふン。こねェンならこねェで、こっちは勝手に楽しませて貰う迄だ」
そんな茜の態度をあざ笑うかのように、沈黙していたオールバックが言う。
意外と声は高めで、顔も落ち着いて見れば端正。華奢な体躯と相まって中性的な感じだ。癖のある口調だが、なんとなく似合っているのが不思議である。
『え……?』
茜のみならず、パシリと番カラン(あだ名固定)まで、声を揃える。
「いえ、それはヤバイでヤンしょ〜?」
「あン?」
「ひっ!」
おずおずとパシリが抗議するが、オールバックの一睨みで撃沈。
「女子をいたぶるっちゅうのは…」
番カランも、続けて抗議する…が。
「はァッ!?聞こえねェッ!」
「……やればいいんじゃろ。やれば……」
あえなく玉砕。どうやら、オールバックが真の実力者らしい。事のなりゆきをただ見守っていた茜だったが、ようやく自分の身に危険が及びつつある事に気付く。
「え……ちょっ……や………」
「すまないでヤンス、命令でヤンスよ…」
「すまんのぅ、勘弁じゃ…」
謝りながら襲い来る悪役二人から、必死で逃げようともがく茜。
だが手を縛られていては、思うように動けない。
「嫌………武君、助けてぇぇえええええっっ!」
茜が、渾身の叫びを上げた時だった。
微かに、地鳴りのような振動が伝わってくる。
「…来たか……!オラッ、いつまでやッてるッ!」
にっと、オールバックが笑みを浮かべた。そして、尚も茜に迫ろうとしていたパシリと番カランを蹴り飛ばす。彼らは数メートル離れた地面に激突。動かなくなった。
出番終了、という事だろう。
「ヒーローはヒロインのピンチに必ず現れるモンだからな…武がヒーローでコイツがヒロインなら、必然的に奴は姿を現す……やッぱ、予想通りだな」
何処か憂いを込めながら訳の判らない事をほざき、オールバックは立ち上がる。
「…大変危険だかラ、良い不良の皆は真似しちゃダメだゼ?」
そして何かを吹っ切るように、どこぞに向かって忠告。良い不良って何だ?
「さぁ、来いッ!都築…武ッッ!」
オールバックが叫んだ瞬間。
倉庫の壁をぶち抜いて、大型トレーラーが突っ込んで来た。
「は……?」
さすがにこれは予想していなかったか、固まるオールバック。
茜も、呆気に取られている。やがて、バックしてすごすごと引き上げていくトレーラー。
後には、その先端に張り付いていた人間がぽとりと残されていた。
だくだくと広がる赤い染み。これが誰であるかは、言わずもがなである。
「武君っ!?」
悲鳴に近い茜の叫びを受けて、トレーラーと共に乗り込んできた武は、よろよろと立ち上がる。さすが、復活も早い。
「…茜…っ、大丈夫かっ!?」
「いや、お前が大丈夫か…?…ッてか、いつからそンなキャラになった……?」
「茜に手ぇ出したら、タダじゃおかねぇからなっっ!!」
「既にお前がタダで済ンでねェ…」
「やかましいっ!」
オールバックの突っ込みにもめげず凹まず、武は雄叫ぶ。
「……来て…くれたんだ………」
武が来てくれた、ただその事に、茜は胸の奥がジンとなってしまう。
「いやそこも!ンな素直に感動してンなよッ!」
なにやら、オールバックは突っ込みで忙しそうだ。
「あああああッッ!ともかく、決着つけッぞ!ほらほら!」
突っ込む事にも疲れたか、オールバックが投げやりに、クイクイと手招きする。
「なんかやっつけだなオイ……」
イマイチ釈然としないまま、武はオールバックに向かって突っ込んで行く。