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所謂恋愛喜劇
【コメディ 恋愛小説】

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所謂恋愛喜劇2-3

「…すまない」
 三度、謝る武。
「っ…!!もういいっ!もう武君なんか知らないっっ!!」
 その態度に、茜は武に背を向けて走り出そうとする。
思わず、武は茜の肩を掴んだ。
「ちょっ…待て、お前にまだ話したい事が…」
「離してよっ!何処か行っちゃうなら、もうあたしなんかに構わないでっっ!!」
 だだっ子のように叫ぶと、茜は思い切り武を突き飛ばす。
「ぐぁっっ!」
 錯乱して、茜はそのまま走り出してしまう。
その後ろで、思いもよらぬ茜のフルパワーに、武の身体はフェンスを直撃。
錆びていたらしいフェンスが、ぐらりと傾いで落ちて行く。勿論、武込みで。
「あ?え?…うわぁぁぁぁぁあああああっっ!?」
 悲鳴を残して落ちていく武にも、茜は気付ず屋上から走り去るのであった。

屋上から続く階段を駆け下りて、ふと振り返る茜。
「………なんで…追いかけて来ないのよぉ…………馬鹿…」
 そりゃあ来れる訳が無い。
その場にへたり込んで、茜はすんすん泣き始める。
周りに人はいない。もう、五限目が始まっているのだろう。
しかしそんな事は、今の茜には関係なかった。
「………っく……っく………っっく…」
 しゃくり上げながら、茜は、自分がどんなに武と離れたくないかに気付く。
そして、武に抱いている『恋愛感情』にも。
(……あたし……気付くの遅すぎるよぅ…………)
 後悔の念が、余計に悲しさを増幅してしまう。
と、茜は自分の傍に立つ人影に気付いた。
「………武君……?」
 涙に濡れた顔で、見上げる。
そこには、見知らぬ男子。武と比べてすら、だいぶ大きいだろう。
「…!?」
 慌てて、顔を拭う茜。
「……お前が藍沢茜…か?」
 そんな茜に対して、男子は突如、尋ねてくる。
低い声。
「……は、はい…そうですけど……?」
 答えながら、茜が顔を上げた瞬間。
口許に何かが当てられて……
意識を失った茜は、くたっと身体を弛緩させて崩れ落ちた。


 「………ん…ぅ……」
 微かな呻き声を上げて、茜は意識を取り戻した。
少しずつ輪郭を取り戻していく視界には、ゆらゆら揺れる火の赤。
どうやらここは何かの倉庫で、ドラム缶に入れた燃料で暖を取っているようだ。
と、周りに誰か居る事にようやく気付く。
「気がついたでヤンスか?」
 背の低い男子(制服を着ているが、見たことのない制服である)が、最初に気付いた。
周りにいた人物が、それぞれに茜の方を振り向く。その数二人。小さいのも含めると三人。
皆一様に学ラン(茜の学校の制服はブレザー)を着ているところからすると、恐らく違う学校の生徒なのだろう。…というか、『ヤンス』って…
……いや、今問題なのは、多分そこではない。
「え?え?どうゆう事?」
 事態が飲み込めずに、混乱する茜。因みに、後ろ手に縛られていたりする。
まさに捕われのヒロインといった風情だ。
「すまないでヤンス。おやびんが都築に用があるとかで、あんたには餌になってもらうでヤンスよ。」
 最初に声をかけてきたパシリっぽい男…むしろパシリが、茜に告げる。
「ワシ等は都築の、此処に転入する前の知り合いでのぅ。色々世話になったから、その礼をしてやろうとここまで来たんじゃが…」
 むさい外見の、見るからに番カランといった風貌の男が、言葉を継ぐ。
思い起こせば、茜を浚った男だ。完全に、その外見は時代錯誤である。
下駄を履いているし、帽子なんかも、フライパンで焼いたりしているのだろうか。
口にくわえた葉っぱが何気に四葉のクローバーである辺り、意外とメルヘンかもしれない。
「果たし状は読まずに破られるわ、直接対決しようとしても尻尾が掴めんわで、んで、嬢ちゃんをダシにさせて貰ったって訳じゃい。とりあえず、使いのモンは寄越してある。都築も直ぐに来るじゃろ」
 もう一人は何も言う事無しに、状況説明は終わった。
ちなみにそいつは長い髪をオールバックにして後ろに流し、やや背が高く華奢だ。
三人の中では最も普通かも知れない。ガラは悪そうだが。先ほどからギラっとした目で茜を睨んでいる。三人の中で、もっともまともかもしれない。
…言わせてもらうならば、あの時武はすぐ傍の屋上に居たわけで、茜の動向を調べるくらいならば武を調べれば、こんな事をせずに済んだ筈だったのだが。


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