隷従一 白日夢 第三章:のぶこ編-2
「ガー、ゴー、ガー!」
突然に、掃除機の音が隣のリビングから鳴り響いてきた。そういえば、今日は週に一度のハウスキーパーの日だ。ハウスキーパーと言えば聞こえはいいが、ようするに家政婦さんだ。昨今は、横文字流行りだ。
『掃除婦募集!』と名打った募集では応募がゼロであったのに、『フロアクリーンレディ』と変えた途端に応募が殺到した、と聞いたことがある。笑ってしまう、まったく。仕事の内容は同じだというのに。
田坂の口利きで、五十代半ばのオバサンが来てくれることになった。冗談に、
「どうせなら、若い女性にしてくれょ。」と言った俺に
「ダメですょ、先生。手を出すじゃないですかぁ。」と、言下に拒否された。まったく、俺を種馬のように思っていやがる。まっしかし、当たらずとも遠からず、と言うところか。
しかし、どうしたことだ。まだ午前十時じゃないか!いつもなら、夕方に来てくれるのに。然も、俺が起きていることを確認してからの、掃除機なのに。
「ウォホン!」
大きく咳払いをしたが、鳴りやまない。聞こえないのかもしれない。やむなく俺は、いつものトランクス一枚で、リビングに入った。
「どうしたの、オバサン!早いじゃないか、いつもより。」
と、そこに居たのは・・。相手も驚いたようだが、俺も驚いた。いつものオバサンではなかった。二十代半ばの、うら若き女性だった。
そういえば、田坂から連絡があった。
「性生活で、悩んでいる女性が居るんです。相談に乗ってやって下さいょ。オバサンの知り合いらしいんですが。」
しかし、まさかこんな若い女性だとは思わなかった。倦怠期を迎えた女性だろうと、思い込んでいたのだ。
女は「キャッ!」と、後ろを向いてしまった。それはそうだろう、パジャマ姿を考えていたろうから。しかし俺にとっては、トランクス一枚がパジャマなのだ。空調が行き届いているこのマンションでは、年中この姿の俺だ。客などは、一人として来ない。田坂にしても、一度来たきりなのだから。
俺は、眠りを妨げられた不機嫌さも手伝って、そのままで声をかけた。
「あんたかね、相談事のある女性は?」
「はい、そうです。突然、申し訳ありません。」
相変わらず、後ろ向きだ。俺は、少し丸めた背中を見ながら、”うん、合格だな。”と頷いた。なで肩といい、腰のくびれといい、足首の細さといい、いいじゃないか。何にも増して、ヒップがいい。ツンと上向いた尻は、さすがに若さの象徴だ。次第に、不機嫌さも取れてきた。
「とりあえず、シャワーを浴びるよ。日課なんでね。その後、話を聞きましょう。」
そう言ったまま、その女の横を通り、バスルームに入った。
温めの湯を出しながら、丹念に身体を洗った。できるだけ親父臭を取るべく、いつもの倍以上の時間をかけた。鼻歌すら出そうな、浮き浮きした気分だ。普段はそのまま出るのだが、今日は念を入れて湯船に浸かった。久しぶりに、朝立ちをしている。待てょ。起き抜けは死んでいたから、違うかな?もっとも、バスタオルで拭いている頃には、又萎んでしまった。
バスタオルを首に巻いたまま、トランクス一枚で出た。バスローブがありはするのだか、取りに行くのが面倒だ。本心を言えば、わざとそうしているのだが。どんな内容かは分からんが、いい思いをさせてくれるだろう。でなければ、応じるつもりは無い。
「先生、お手柔らかにお願いしますょ。何と言っても、おばさんの知り合いなんですから。」
田坂の言など、知ったことではない。おばさんと言っても、俺には赤の他人だ。第一、この俺に相談事を持ちかけてくるのだ。それなりの覚悟は、当然にあるだろうし。