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僕とあたしの海辺の事件慕
【ラブコメ 官能小説】

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僕とあたしの海辺の事件慕 最終話「色褪せても大切な日々……」-6

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 木の枝に引っかかった帽子を取ろうとして落っこちた。その拍子に右足首を骨折。
 強がってはみたものの、どうにも歩けるものでもない。仕方なしに子分に肩を貸してもらい、家に戻る。
 オヤジは笑っていたが、お袋は今にも泣きそうな顔をして二度ほど頬をはたいてきた。だが、それは心配してのことだろう。なんせ、ワシは悪さばかりしとったからな。
 当時、村には簡単な診療所しかなく、治療といってもシップを貼る程度しかできなかったわけだ。だんだん痛くなってきたことを伝えると、村長の息子が車を出してくれるといってくれたので、海岸沿いの診療所に運ばれたわけだ。
 村長の息子は妙に張り切っていてな、急にスーツを着こんでわしに「お土産なにがいいかな」とか言い出しよったわ。あいつはワシをダシに看護婦さんに会いにいったわけじゃな。
 まあそれは置いといて、検査の結果、ワシは入院することになったのじゃ。骨が折れとったから当然かの。
 泊まっていたのが二〇三号室で二人部屋じゃった。ただその頃はお盆でもあって患者も一時帰宅をしており、どこも寂しい感じじゃったな。
 夜になると海風が吹いたり、昼間は松林からセミの声がうるさく、そうそう快適とはいえんかった。
 できればさっさと帰りたかったが、脚は折れてるし、村長の息子はもっと入院してろとうるさいし困ったものじゃった。
 しかし、ある日のことじゃな。
 君も知っているだろうが、例の手すりから声が聞こえてきたのじゃ。
 ぼそぼそとしていてな。それがだんだん声だと分かって、そしたら歌だと分かったんじゃ。
 最初はワシも驚いたよ。なんで人の声が聞こえてくるんじゃってな。とはいえ、ワシ、理科は得意じゃったから、糸電話というか、メガホンというか、そういう原理なのだろうと見切りをつけ、夜の病院を探検したわけじゃ。幽霊探しにな。
 そしたら二〇四号室、今ワシが使ってる部屋じゃな、あそこに人が居ったんじゃ。

 高島妙。

 黒髪の長い、色白の美しい娘じゃった。
 雪、まあワシは見たことが無いが、月明かりに青白く照らされる肌は幽霊じみていてちょい怖かったかもしれん。んじゃが、その歌声がな、少しどころかかなり音程が外れていて、ふふ、笑ってしまったんじゃ。
 ワシは部屋に入ると同時に叫んでやろうと思ってた。驚かされた仕返しにな。けど、声が出んかった。あまりに綺麗な妙の様子にワシは息を飲むのがやっと。なのにアイツはワシをみて「こんばんは」と言いおった。
 ワシも「こんばんは」と返すと、彼女は手招きしてベッドの脇に座らせてくれた。
 どうやら彼女も足を骨折していて、かなり不自由してたみたいだ。もちろん松葉杖もあるのじゃが、なにぶんバリアフリーというしゃれたものも無い時代、部屋一つ出るのにも跨ぐものが多くて、ワシも何度となく躓いては転んだもんじゃった。
 妙は実家に戻れんかったらしく、ワシはそれを聞いて実家に戻るのを止めたんじゃ。
 何故かって? そんなのきまっとるじゃろ? 一目惚れじゃよ。
 というか、ワシ、そのときまで女子と話すことあんまなかったからな。今でこそ……、いや、それはまあ良しとして、免疫の無いワシは見事妙に一目惚れしてしまって、それからはほとんど彼女の病室に入り浸っていたもんじゃ。


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