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僕とあたしの海辺の事件慕
【ラブコメ 官能小説】

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僕とあたしの海辺の事件慕 最終話「色褪せても大切な日々……」-7

 そんなある日、彼女を外に誘ったんじゃ。
 看護婦さんたちに見つからんようにこっそり階段を降りて海辺に行ったわけだが、お互い骨折の身、当然泳げるわけでもなく、ただ寄せては返す波を見るだけじゃった。
 まあ、それでも楽しかったから良いのだがな。
 しかし、いざ帰るとなって妙がダダをこね始めた。
 遠くに見えた灯台、アレに入ってみたいといいだしてな。
 その頃はさすがに一般開放はされとらんかったから、無理じゃといったわ。しかし、妙は入りたいとごねる。ワシも無理だと言い張る。そのうちに探しに来た看護婦達に捕まって病院に強制送還されたわじゃ。
 その夜は……、妙は謝るどころか文句をつけてきおったわい。
 灯台からの景色が見たかったのに……とな。
 ワシも惚れた弱みというべきか、写生してきてやるなんていったもんじゃ。
 そして描いたのがあの絵なんじゃ。
 まあ、妙には「灯台の景色」じゃなく「灯台からの景色」と笑われたがな。
 それでも彼女は喜んでくれた。そして例のナゾナゾじゃ。
 その後? ふふ、彼女は退院すると同時に嫁いでいったよ。

▼▽――△▲

 老人の思い出話に耳を傾けること小一時間、真琴は起き上がり溢しのように頭を前後に揺らしていた。

「絵はどうして戻って来たんです?」
「ん? 絵は……夏休みの宿題に提出した」
「もう、おじい様ったら……。普通プレゼントに使ったようなものを宿題に出すかしら?」
「ふふ、まあなんでじゃろうな?」

 気さくそうに笑う老人とそれを嗜める孫。真琴も不可思議といった様子でそれを見ているが、澪にはなんとなく老人の嘘が分かっていた。

 ――身を引いたのよね。多分……。

 青春時代の久弥がどのような人なのかは分からない。けれど身の丈も力も無く、一目惚れと言うべきか憧れ程度の好意では、相手に対して荷物になる。なけなしのプライドというものがそれをさせたのかもしれない。

「あの絵って病院から描いたんですよね」
「ああ、そうじゃよ」
「でも、おかしくない? 灯台は二つ並んでいたわけでもないのに」
「う? うむ、まあ、そうじゃな……ふふ。まあ、ワシもあほうじゃったからのう」
「ふうん。それなら多分……」

 何かに気付いたらしく真琴は誇らしげに口元を緩める。
 澪としては幼馴染のその自信に満ち溢れた態度があまり好きではなかった。なんとなく自分が遠くなるようで、少し寂しさもある。けれど、彼は自分をきっと引っ張ってくれる。ただ、それが余計に……。

「澪ちゃん、胡桃のほうはどうかしら?」

 台所のほうから公子がすりこぎと鉢を持ってやってくる。彼女は集められていた胡桃の実を拾うとそれらを放り始める。

「へえ、なんか和風って感じですね。コレで豆腐が作れるんですか?」
「んー、ちょっと量が足りないけどこの人数なら平気かしらね」
「他にも何かお手伝いできることありませんか?」
「あら嬉しい。それじゃあね、香味野菜を刻むのとすりおろすの手伝ってくれる?夕飯に使うから」

 夕食も出世魚だろうけれど、公子が手を加えればそれはキャリア魚とでもいうほど素敵な料理になる。きっと香味野菜をふんだんに使った餡かけか、それとも蒸し焼き、マリネなどかもしれない。

「はーい」

 澪はカナヅチを片付けると、そのまま公子の後に続いた。


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