僕とあたしの海辺の事件慕 第二話「不可解な出来事、しばし」-18
「違うよ、誤解だってば!」
「あーそれ前に言われたことあるわ。浮気してた前彼からさ……」
火に油を注ぐどころかガソリンを注ぐ理恵の一言に澪はガタンと椅子を倒し、そのままどすどすと階段を上がる。
「み、澪……」
「うっさい! この浮気者!」
ただの幼馴染に浮気者と言うのは矛盾を含まないかと思うも、沸騰した澪を煽ることに意味は無く、真琴はただしょぼくれるだけ。
「あらら、澪さん怒っちゃいましたね、ほんの冗談なのに……」
「まったく、最近の若者はこらえ性が無いわね……」
元凶である二人に言われるのは癪だが、紗江に付け入る隙を与えたのは自分であり、口喧嘩で勝てるはずも無いとため息をつくばかり。
「真琴さん、浮気はダメですよ!」
話をかいつまんで聞いていた美羽はぷりぷりしながら真琴を嗜める。
「はい……」
言われなくとも分かっていると、自らの軽率さを反省する真琴であった。
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夕飯時、真琴は澪の回りをコマ鼠のように付き纏っていた。
「ねえ澪、このお刺身美味しいね。あ、エビの髭に気をつけて、刺さると痛いからさ」
「飲み物いる? 頼んであげるね……」
「僕が取ってあげる? あ、大丈夫……、そう」
気を惹きたい一心で動き回る彼を見ていると気の毒になるが、澪にしてみればちょっと目を離した隙に別の女と……。到底赦せるはずもなく、先ほどから真琴とは一切口を聞かず、彼の頭越しに理恵や美羽に話を振っていた。
「美羽さん、ドレッシング下さい」
「あ、理恵さん、また飲みすぎたら駄目ですよ」
「ん、エビの頭の味噌ってまったりして美味しいですね」
しょんぼりする真琴と上っ面な笑顔の澪。
理恵はその様子をクスクスと笑っていた。
「で、弥彦兄様は大丈夫なんですか?」
遅れて食堂にやってきた公子はエプロンの前にクリームをつけていた。どうやらデザートかなにかの準備をしていたらしく、続く紗江が生クリームでデコレートされた色とりどりのアイスを運んでくる。
公子はアイスにラズベリーの風味のするリキュールをかけ、バーナーを近づける。
ボンと火の玉が出来上がると、辺りに甘い香りが漂い、満腹になりかけた胃を整理してくれる。
「わあ、綺麗……ねね、ほら澪、すごいね……」
「ねえ公子さん、それなんていうんですか? アイス溶けたりしないですか?」
「これはフランベって言うの。アイス表面にはメレンゲが薄く塗られてるから平気なの。いい香りでしょ?」
「はい!」
食後のデザートにわざとらしく目の色を澪は、まだ真琴のことを赦していないらしく、意識的に無視しているように見える。
「ふむ、病院で検査をした結果では骨に異常はないそうじゃ。まあ、アイツには良い薬じゃしの」
焼き色の付いたマグロの刺身に箸を伸ばし、しょうが醤油で一口。お猪口に入った日本酒をぐびぐびと飲むと、彼は上機嫌になる。