僕とあたしの海辺の事件慕 プロローグ「夏の日の午後」-1
プロローグ 夏の日の午後
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――暑い……、すごく暑い。大体なんでクーラーが無いのよ、この部屋は……。
香川澪は寝癖にしては整った外ハネの髪を掻き揚げると、ベッドの上で寝返りをうっていた。
開いた窓から風が吹き込むとブルーのカーテンが揺れ、季節柄の風鈴がリーンと澄んだ音を出す。
三つ上の従兄弟からもらった黒のキャミソールはフリルが少女趣味で好みではない。けれど通気性に優れており夏の日の心強い味方。けれど、七月の終りにして未だ今年最高気温を更新する勢いの昨今、風流だけで涼めるはずも無く、今日二つ目のカキ氷を食べるべきか悩んでしまう。
こんな日は図書館かプールにでも行き、涼みたいところ。一人で行くのが切ないのなら、ちょっぴり生意気なアイツを誘えばいい。
小柄で女の子のような頼りない男の子。
自分を守ってくれた男。
初めてを捧げてしまったアイツ。
――会えるはずないじゃない……。
あの日のあともアイツは変わらなかった。いつものようにメールを送ってきては電話口では他愛の無い話をするばかり。きっと友達以上のほぼ恋人のステージに上がったはずなのに、彼は澪を意識する素振りをみせず、どこかクールを装っており、それが癪だった。
調子に乗って初めてを捧げてしまったことに後悔は無い……、
が、初めてを捧げた相手と結ばれたい。
そんな幼い恋愛観を捨てきれずにいる自分と、それを体現してしまう自分が恥ずかしかった。
――なんで真琴ってばあたしのこと……。あたしはこんなに……、んーん、アイツの方があたしを想ってるもん。そうじゃなかったら悔しいし……。
ピンクの枕に突っ伏し、目をつぶる。白い壁にはアイドルのポスター一枚無く、ヌイグルミもストラップ用のが二つある程度。
十七の女子の部屋にしては簡素な洋装だが、これでも進歩したほう。
――真琴……。
目を深くつぶり、意識を闇に沈ませる。その暗闇に身体を重ねた相手を思い出す。
ひ弱で色白、パッチリおめめと程よい睫毛。鼻は高く整っているが、キスのときに邪魔になるから好きではない。触れるとその柔らかさに嫉妬したくなる真っ赤な唇。
アレに騙され、どれほど恥ずかしい台詞、態度を見せたものか……。
「ああアーーン、恥ずかしいよー! 死にたいよー! 誰か殺してよー!」
快楽の中、真琴は自分のものであり、自分は真琴のものであると断言したことが突然フラッシュバックし、羞恥のなか転げまわる澪。
しかし、鮮明に思い出されてしまった真琴は優しく微笑み、その手を彼女に伸ばしてくる……。
――もう、真琴のエッチ……。
彼の右手が澪の肩を抱き寄せ、腕を撫で、胸元を嗜め、おなかをさする。