お江戸のお色気話、その6-1
(6)
長屋の夜は更けており、亥の刻(現在の二十時頃)ともなれば相当暗く、
辺りは、灯りが無ければ足元が覚束ないような状態ではあるが、
ここでは誰も席を立とうとはしない、
それは、
ここが、心から落ち着ける彼らの唯一の憩いのステージでもあるからだ。
すでに、灯りの魚油も何度も継ぎ足されていた。
その油は、老人の部屋で講釈を聞くたびに、
交代で皆が持ち寄るのである。
前述したが、この時代には灯りとしての油は貴重品であり、
時間と共に減っていくものに、
貧乏人としては、あまり金を掛けたくないのが本心ではあるが、
時には、それをふんだんに振る舞うのも、心意気とするところもある。
江戸っ子とは、そういうところがあり、
貧しい中でも、そういう楽しみを味わうところに「粋」という言葉がある。
長屋の聴衆を目の前にして、
相変わらず金吉は得意げに熱弁を振るっている。
「それで、娘はあたしと目が合うと、
これ見よがしに、とばかりに
恥ずかしそうにしながらも、襦袢の前を大きく開くんですよ、
多分、あの初心な娘が、自分からそんなことをするはずがありません、
それは、母親が言い含めたのでしょう、
でも、あたしにとっては、
そんなことは、どうでもいいんです。
あたしは、娘を抱ければいいんですから・・
裾の前を開けた娘のあそこは、母親とは違って毛が薄いから、
割れ目が見えるんですよ、
それが・・心なしか濡れているようでして、
破れた障子の間から漏れる光で、うっすらと見えるんです」
「ほうほう、初心な娘でも濡れるんじゃなぁ・・
こんな老いぼれのわしの目にも浮かぶようだ、
ところで、金吉や・・それで借金の取り立ての件だが、
お前は、その娘のお色気で
もうすっかり忘れているんじゃないかな」
「へえ、そんなもんです・・ご明察の通りでして、
よくご存知で、流石ですねご隠居、
仰有るとおり、もうあたしの頭は娘のことで一杯でした、
早く娘を抱きたい一心で、お恥ずかしい・・」
「ははは、いかにもお前らしい、
でもな、その奥方は、なかなかやるのぉ・・
借金の棒引きに、初心な娘を抱かせるとは、
普通に考えれば、酷い母親だと思うのが常だ、
しかし、生きる為を思えば、それしか道が無いのだろう・・
どういうわけで、親子が二人で生活しているのかは分からんが、
わしらにも分からん事情があるのだろう、
しかし、娘も心を決めたようだし・・
娘もお前と、奥方との交わりを見て、
自らを慰めていたとなると、
あながち、金のためだけ、とは言えないかもしれんが・・」