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【推理 推理小説】

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3rd_Story〜絵画と2つの裏向く名前〜-3

2.Ordinary

 その土曜日がやってきた。10月にしては少しばかり日差しが強い。秋晴れといったところだろうか。待ち合わせ場所は、絵画展の展示場前に直接。待ち合わせの時間は、午前11時。今はその10分前である。黄依が来るのはいつも5分前なので、里紅は、展示場の前で1人で待っていようと思っていた、のだが。
 なぜか、里紅の目の前には、屡兎と碧の姿があった。黄依との話では、今日は2人だけの筈だった。2人だけなんてデートっぽくて、ちょっと、ほんのちょっとだけ楽しみにしてたのに。
「何でいるんすか?」
 声のトーンが低くなってしまったのもしょうがない。
「妹のためならば仕事も休む! それが兄ってもんだろう?」
「知りませんよ、そんな事。っていうか、屡兎さん仕事サボったんすか?」
 屡兎<るう>とは、黄依の兄の事である。全ての基準は妹であり、黄依が呼べば地の果てまでも駆けつける、簡単に言えば、シスコンだ。残念な事に。非常に残念な事に。
「今日は元々休みだったんだよ」
 その休みを取ったのが、黄依が土曜日に出かけると聞いてからなのは、屡兎しか知らない事実である。
「でも、私ちゃんと里紅さんに言いましたよ?」
「え?」
「土曜日は私達も行きますって」
「そうでしたっけ?」
「そうでした」
 碧の言うように、里紅にその話をしたときには一緒に伝えていたのだが、勝手に1人で舞い上がっていた里紅の耳は、碧の言葉を右から左へスルーしていた。
「ごめんなさい」
「いえ、構いませんよ。黄依さんが来るまで待ってましょうか」
 11時5分前丁度に、黄依が到着した。お決まりのパンツルックが、それほどお洒落に興味がない事を如実に表している。因みに里紅はパーカーにカーゴパンツというこちらも無難な格好。
「ちょっと。なんでこいつがいるの」
 待ち合わせ場所に来た黄依の発した一言目が、非常にSっ気交じりで、将来性を感じずにはいられないが、そんな事はお構いなしの人間が1人。黄依の言うこいつ、屡兎だった。今にも自分の妹に抱きつこうとしている。だが、それを易々と見逃す訳もない。鳩尾に、エルボーが入る、5秒前。
「んごぅ! ……妹よ。なかなか良い、フォームだったぜ……」
 黄依が、妙な呻き声をあげてその場に蹲る屡兎を、まるでゴミを見るような冷たい目で見下す。その目は、次の標的とばかりに里紅を睨み付ける。
「里紅?」
「ごめんなさい!」
 今にも土下座しそうな勢いで里紅が謝る。さっきのごめんなさいとは大違い。あまりふざけた事をすると、次は自分があのエルボーを喰らう事になる。
「泣いて謝ったって、絶対に――」
「黄依さん」
 と、今まさに里紅を締め上げようとしていた黄依に、碧がストップをかけた。
「それ以上はやりすぎですし、その先を言うと色々と危ないですよ」
「でも……ごめんなさい」
 口が表しているのは『笑』なのに、目は明らかに『怒』を表現していた。敬語キャラの静かな怒りほど怖いものはない。黄依も思わず謝ってしまった。
「さ、行きましょうか」
 さっきとは打って変わって笑顔の碧が、皆を先導する。彼女は基本的には笑顔の人なのだ。先ほどもそれほど怒っていたわけではない。
 しかしてそこに、楽しげな1人と、落ち込んでいる3人という奇妙な面子が揃っていた。いや、屡兎が少しばかり喜んでいる感は否めないが。


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