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【推理 推理小説】

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3rd_Story〜絵画と2つの裏向く名前〜-4

 展示場に入り、受付の女性からパンフレットを受け取った里紅一同は、順路に従い、絵画を鑑賞する。場内はそれほど広くはなく、人も、里紅たちと学芸員、それと数える程しかいなかった。その所為もあってか、静寂に包まれており、聞こえるのは、靴が鳴らす足音と、僅かな話し声だけ。歩くのにも気を遣ってしまう。
 里紅は、それほど芸術に詳しいわけでもなく、芸術的価値などといったものもあまり分からない。確かに感動を得られるものもあるが、それをどういった経緯で自分が感じたのかも分からない。絵画を見て分かるのは、どんな色を使っているのか、何を使って描いているのかなど、専ら知識から得られるものばかりだった。なんだか、自分がここにいるのが場違いな気がして、外に出てきてしまった。
「こんなとこで何やってんの」
 しばらく展示場近くのベンチに座って休んでいた里紅に、話しかける人影があった。
「サボり」
「芸術鑑賞をサボる奴初めて見た」
「俺も芸術鑑賞をサボったのは初めてだ」
 黄依の皮肉に里紅も皮肉で返す。隣に座った黄依から、溜息が聞こえてきた。
「何があったか知らないけど、折角の碧さんからのお誘いなんだから、ちゃんと中に居なきゃ失礼でしょ」
「ああ、まあ、それは悪かったと思ってるよ」
「本当に?」
「ほんとだって」
 黄依の、明らかに疑いを持っている眼差しを凌ぎつつ、応える里紅。
「なら良いけど。でも、里紅が自分の事で悩むなんて珍しい」
「それ馬鹿にしてない?」
「馬鹿にはしてないわよ。ただ、里紅は昔から他人の事ばかりで、自分の事は蔑ろにしてきたじゃない」
「そんな事――」
「あるでしょ?」
「……なきにしも、あらず」
 確かに、里紅は他人の事を良く気にかける。かけすぎると言ってもいい位に。それはもはや癖と呼ぶべきかも知れないほどにだ。他人のためなら身も投げ出すとまでは言わないが、誰かに尽くすことは嫌いではない。しかしその反面、自分の事を御座なりに済ます事も良くある。それでも、里紅自身は、この性格が嫌いではない。勿論、里紅も人の子なのだから、自分の事で悩む事も多々あるが。
「私が言いたいのはそういう事」
 黄依は立ち上がり、里紅に向かい合う。なんだかんだ言いつつ、ちゃんと里紅の事を心配しているのだ。日々の暴言も、その裏返しと考えれば、可愛いものだ。
「それに、ちゃんと自分を持ってないと、いつか挫けちゃうわよ」
「挫ける?」
「そ。言い換えるなら、喰われるわよ、内なるホロ――」
「ストーーップ!」
 今のは不味い。非常に不味い。
「黄依。今日は何か変だよ……?」
 さっきから色々ぶっちゃけすぎてる。里紅も心配してしまった。
「さて、戻るわよ。ちょっとしゃべり過ぎたし」
「え? ああ、そうだな」
 里紅が外に出てきてから、すでに結構な時間が経っていた。展示場内にいない2人を、屡兎や碧が心配している可能性がある。
 戻ったら、絵画をもう一度見てみよう。里紅はそう思った。色々考えすぎていたのかもしれない。黄依と話す事で、少し気持ちが和らいだ。今なら、素直に感動に浸れることが出来る。そう、思っていた。
 そんな里紅の思いは、無碍に捨てられる。

 なぜなら、里紅と黄依が展示場に足を踏み入れるのと、全ての絵画が一斉に燃え始めたのは、ほぼ同じ瞬間だったからだ。


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