近くて遠い恋-5
俺が全部悪かった。分かってる。だけど俺はえなに謝ることが出来なかった。俺はえなを愛してる。愛しているからこそ、この独占欲でえなを壊してしまいそうで怖いんだ…どうして俺はえなを不安にさせることしか出来ないんだ。どうして自分から離れていこうとしてしまうんだ。えながいなくなってしまうことをこんなにも恐れているのに。
えなの隣には高橋君がいつもいて、近くにいても遠く感じる。そんな二人を見ている俺は、えなは俺より高橋君の方が幸せなんじゃないかってよく思ってしまう。俺はこんな情けない男だっただろうか。
昨日、高橋君が突然家にやって来た。
「どうして澤口さんを泣かせるんだよ!!おまえがそんなんだったら僕が澤口さんを守る!!」
えなが泣いていた?俺はまたえなを傷つけた。きっともう俺のところには戻ってきてくれないだろう。悔しくて悔しくて自分が情けなくなった。だから俺は高橋君に殴られても何も出来なかった。これじゃあいつと一緒じゃないか。浅沼と変わらないじゃないか。どうしてこんな自信のない男になってしまったんだよ、俺は…
どれくらい泣いたんだろう。そのまま疲れて眠ってしまっていたあたし。今日は花火大会。あたしの誕生日。最悪な誕生日になっちゃったよ。そんな時、一本の電話が入った。高橋君だった。
「やっぱり一緒に行こうよ、花火大会」
「…うん」
誰かに側にいてもらわないと、何かしてないとおかしくなっちゃいそうだったから。奴を信じていたけど、奴なら信じても大丈夫だと思っていたけど、それはあたしの勘違いだったの?やっぱり出会いがあれば別れもあるの?。きっと‘ずっと’なんて存在しないんだ…。
奴の前で着るはずだった浴衣。ピンクと白の蝶々柄の浴衣。それを着てあたしはまた泣いた。高橋君が迎えに来てくれて、河原に向かって歩いてる時、
「もう無理しなくていいよ」
高橋君があたしの頭を撫でてくれた。でも奴とは違う。奴の手はもっとあたしの心をドキドキ高鳴らせるんだ。
「やっぱ僕にはだめかな」
高橋君が悲しそうに笑う。
「澤口さんの隣は僕じゃない。自分でも気づいてるんでしょ?」
…いつも奴はあたしの心から離れない。そうだよ、奴がいないとだめなんだ、あたし。奴じゃなきゃ…。
「ごめんね、高橋君。ありがとう」
あたしは走り出した。
今日はえなの誕生日。俺の手には渡すことが出来なくなった、プレゼントがある。俺はえなの喜ぶ顔が見たかったから、えなの笑ってる顔が大好きだから、これを渡してえなを笑顔にさせたかった。えな、愛してる。誰よりも…そうだよ、なんでもっと早く気付かなかったんだ。えなじゃなきゃだめなのに。俺はずっとえなのそばにいたいんだ。愛してるからこそ独り占めしたくなる。それは当たり前のことじゃないか。愛してるからこそ君のすべてが欲しくなる。それをえなはいつ拒んだ?嫌われるのを恐れて逃げていたのは俺じゃないか。俺は走り出した。
ヒュー…ドーン
花火大会が始まってしまった。人混みで携帯の電波が入らない。ただやみくもにあたしは奴を探している。今すぐ会いたい。会ってすべて伝えたい。どれ位走っただろう。履き慣れていないぞうりで走っていたから、足の感覚がおかしい。そしてとうとう走れなくなってしまった。わき道でしゃがみ込むあたし。泣きそうになる。どうして失ってから気付くの?奴がこんなに大切なのに…
「えなちゃん!!」
奴が呼んでるような気がする。どんどん近づいてきてるような気がする。気のせいだよね。こんなに人いるんだもん。そう思って泣きそうになっていたあたしを優しくて落ち着く感覚が包み込んだ。奴だった。奴が息を切らせて、あたしを抱きしめている。
「やっと捕まえた。もう絶対離さない」
奴の声は今にも泣き出しそうに枯れていた。「あたしたくじゃなきゃだめ!!たくじゃなきゃ嫌だよ!!」
あたしはもうすでに泣いていた。
最後の花火が上がった時、あたし達はキスをした。やっと心が一つになれた。
「花火、結局見れなかったね」
あたしが笑ってそう言うと奴が手持ち花火をコンビニで買ってくれた。
「線香花火の火種が落ちないで消えたら、えなちゃんにいいものあげるよ」
奴が笑って言った。
「ねぇ!!落ちなかったよ!!」
あたしが興奮して奴に笑いかけると、目つぶってと奴が言い、それに従うあたし。
「開けていいよ」
目をゆっくりと開く。
「誕生日おめでとう」
あたしの左手の薬指には指輪が光ってる。
「絶対にえなちゃんを幸せにするから」
前言撤回。やっぱり今日は最高の誕生日。本当に忘れられない誕生日になったよ。ありがとう。
あとから聞いたら、奴の香水は限定品らしいけど、森下先輩ももとから持ってたらしく、奴がもの凄く怒ってました<笑>きっと浅沼先輩も奴もあたしに奪われた気がして、嫌がらせしたかったのかな。
夏休みはまだ半分残ってる。ちゃんと構ってね、たくちゃん。