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近くて遠い恋
【青春 恋愛小説】

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近くて遠い恋-2

‘カランコラン’入り口のドアの鐘が鳴る。あたしは久しぶりに奴の顔を見た。肌は黒くなってるし、髪の毛も短髪になっていた。部活頑張ってるんだろう。
「!?えなちゃん!?」
驚いてる驚いてる。
「大島君とえなちゃん、知り合いなの?」
と店長が聞いてきたから、
「だってあたし達…」
「澤口先輩は同じ高校なんです!!」
付き合ってるって言おうとしたあたしを遮って奴がそう言った。…澤口‘先輩’?はっ!?
「あ、そうなんだー」
と店長は疑うこともなく納得して、キッチンの方へと下がって行った。
「何でえなちゃんがいるの!?」
「今日からあたしもここでバイト始めるの。つーか‘先輩’ってどうゆうこと!?」
「それはその格好見れば分かるよ。‘先輩’って言ったのは俺達が付き合ってるの分かってて雇ってくれるわけないだろ!?」
「あ、そっか」
「ったく。えなちゃんは何するか分からないよ」
奴はあきれた風に言ってあたしの頭にぽんっと手を置いた。だけどその手は凄く優しかった。まぁ尾行はいけないことだけどして良かったかな。
「でも…えなちゃんやっぱりまじ似合ってる」
顔を赤くしてぼそっとそう言って、奴は更衣室へ行った。そんな奴が可愛かったりして。すると暫くして、‘カランコラン’入り口のドアが開く。
「あれ、澤口さんじゃない?ここでバイト始めるの?」
そう話し掛けてきたのは、一年の時に同じクラスになったことのある高橋君だった。彼とは何回かしか話したことはないけど。‘カランコラン’続けてもう一人女の人が入ってきた。そして、
「おはようございます」
あたし達に軽く挨拶した女の人もまた知った顔だった。更衣室からちょうど出て来た奴と仲良さげに話している。胸がズキズキ痛む。背が高くてすらっとしていて綺麗な人。同じ高校の先輩で、私が浅沼先輩と付き合っていた時、色々と悪口を言われたっけ。
「森下先輩、大島君のこと狙ってるらしいよ」
狙ってる?でも奴とあたしは付き合ってるんだし、気にすることないよね。それにまた悪口言われても奴が好きだから構わない。あたしは自分にそう言い聞かせた。

キッチンには店長を含めて4人いる。挨拶したけど、みんな優しそうな人だった。ホールはあたし、奴、森下先輩、高橋君の4人。森下先輩にも改めて挨拶したが、何だか冷たくて怖かった。てゆーかあたしを敵視しているような…あたしが奴と話しをしようとすると、割り込んで奴を連れてってしまう。わざとあたしに見せつけるように。初めてだからどうすればいいのか分からないでおろおろしていると、高橋君が何かとフォローしてくれた。奴はあたしのとこには全然来てくれなかった。こんなに近くにいるのに…
10時になって、あたし達高校生は遅番の人達と入れ替わる。このお店、夜はBARになるらしい。森下先輩と更衣室で一緒になったあたしは、
「お疲れさまです」
と声をかけてみたけど、無反応。チーン…そんな張りつめた空気の中、何分か経ち、先に森下先輩が更衣室を出て行った。後からあたしも出ると高橋君がいた。そして従業員は帰りは裏口から出るらしく、案内してくれた。奴?奴は森下先輩と一緒に帰ったらしい。奴から誘うわけないって分かってるけど、相当へこむよね…しょんぼりしていると、
「澤口さんって大島君と付き合ってるんでしょ?」
といきなり高橋君が聞いてきた。
「え!?」
「前に大島君から聞いた」
なんだ、高橋君はもう知ってたのか。
「大丈夫、みんなには内緒にしておくから」
と笑って言った。高橋君ってほんと優しい。今も夜は危ないからって送っていってくれてる。
「ありがとう。でも無理かも。あんな近くでたくが他の女の子と喋ってるのあたしは見てるだけで、付き合ってるのも隠さなきゃいけなくて、なんかあたし惨めじゃん」
「だめだよ!!澤口さんは大島君の彼女なんだからそんなの気にしなくていいし、大島君のこと信じたいんでしょ?」
「…うん」
「それじゃあちゃんと近くにいて確かめなくちゃ」
そう言って高橋君は優しく笑った。
あたしは泣きそうだった。始めは奴があたしを追いかけてたはずなのに、今度はあたしが追いかけてる。追いかけても追いかけても近くにいる気がしなくて、奴の言ってくれた言葉も信じれなくなってきて、でもやっぱりあたしは奴が大好きで…。

もうそこだからと言って、お礼を言い、あたしは高橋君とばいばいした。角を曲がると、家の前で奴が待っていた。しかも顔が明らかに怒ってる。
「高橋君に送ってきてもらったの?」
「そうだよ。たくが森下先輩と帰っちゃうから」
「しょうがなかったんだよ!!俺だってえなちゃんと帰りたかったし!!でもえなちゃんは高橋君の方がいいみたいだね」
「何その言い方!?高橋君はあたしのこと心配してくれてるだけだよ!!たくはあたしより森下先輩なんでしょ」
「そんなわけないじゃん!!俺は…!!もういい!!勝手に勘ぐってろよ」
最悪だ…あたし達は言い争って、奴は怒ったまま帰ってしまった。初めて奴とケンカした。分かってる。奴が悪いんじゃないんだ。嫉妬…あたしの心を掻き乱すもの。そして素直になれなくさせるもの。奴はあたしの元からいつかいなくなっちゃうんじゃないか、たまらなく不安になるんだ。あたしは奴のこと信じたい。ただそれだけなのに。
ねぇ、あなたは今どう思っているの?
ねぇ、あたしはたくの彼女でしょ?


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