初恋はインパクトとともに ♯4/ステップアップハートビィト-12
しばらくして…
私たちは観客席の最上段に場所を移していた。
そう、待ちに待った昼食タイムだ!
アカネが袋からお重を取り出し広げていく…本当に器用なヤツだ。彩りとか飾り付けにまでこだわっている。
「何か食べるのがもったいないな…」
自分でも分かる…瞳が輝いていると。
「食べてもらうために作ってきたんだからさ?さあ貪り食ってくれ。」
「では…いただきます!」
アカネの料理は…どれも美味しかった。
とくに唐揚げが私好みの味付けで、アカネの分まで食べてしまった。炊き込み御飯もホントに中学生か?ってくらい玄人な味付けで美味だった。筑前煮は…どうやら本人は不満の残る仕上がりだったらしい。(私は十二分に美味しいと思ったんだけどさ)
食事も一息ついてきたところで、私は先ほど気になった腕の傷についてたずねてみた。
「剣道をやめたのは…その傷が原因なのか?」
「え?ああこれ…まあ、そうとも言えなくもない。」
何か煮え切らないハッキリとしない返事だった。
「傷の治りが悪いのならば、良い医師を紹介できるが?」
「うん…」
やはり何かよそよそしくって口ごもっている。
「傷のせいではないのか?何が原因なんだ?」
隠し事されてるみたいで、何か少しイライラしてきた。
「う〜ん…大したことじゃないんだけどな…ごめん、話せないんだ。」
「大したことじゃないならば話せるだろ?」
「うん。ごめん…でも話せないんだ。いつか話すから、ごめん。」
彼は何か辛そうな暗い顔をしていた。
何か胸が傷んだ。彼のそんな顔を見たくなかったんだ。
彼にはできるだけ笑顔でいてほしい…そう思った。
アカネが笑ってくれたなら…私も笑える。
アカネが楽しければ、私も楽しいんだ。
アカネが悲しければ、私も悲しい。
だから私は…彼を…
いやしかし…
彼に対しての本当に素直な気持ちに気づいたのは、かなり月日が過ぎた後だったんだ。
それから……
結局アキラとは昼休憩後は会えなかった。
昼に抜け出したのが災いして、親衛隊のガードがきつくなったらしい。
(優勝おめでと〜!くらい言わせてくれよな〜)
アキラの生き生きとした姿を見れただけで満たされている自分がいたりするわけだが…
(ラーメンでも食って帰るかな)
武道場を後にし、壊れた自転車を引きながら家路へ…
そこでまた…
「朝比奈くん…だよね?」
今日で三回目。もう耐えられねえ…
でも何か無視はできなかった。人が良すぎだろう!朝比奈茜!
「そうですが何か?」
僕は悟りきったような満面の笑みで答えた。
「あれ?君は…」
確かアキラの側にいた…名前は…
「ヤクモクインボルト!!」
「って競走馬の名前よね?しかもうちの所有馬。」
「え〜ホントに?俺ファンなんだよ!メトロポリタンHとハリウッドゴールドカップは凄かったよね!ドバイとBCは残念だったけど!」
ヤクモクインボルトってのはね!その物語の始まりは三年前にまでさかのぼるんだけどさあ…
「そんな話はどうでも良くってよ」
八雲さんは僕の熱を払いのけるかのごとく手をひらひらとさせ話を止めてしまった。
(熱い競馬談義が始まると思ったのによ〜)
「ところでさぁ…君、進路は決まってるの?」
なんだい唐突に?
「進学先かな?それなら海都学園を受けるつもりだけど?」
と律儀にも答えちゃう俺。人が良すぎ…割愛。
「ほうほう…ふむふむ。」
何かニヤリと笑みを浮かべてる八雲さん。なかなかキレイな子だよな〜何か色気がある。まあ、アキラのほうが可愛いけどな!
「分かったわ。」
何が分かったんだよ?
「受験頑張ってね〜ドロン!」
何が何だか…って、もういねえし…
何だったの?
ねえ?何だったのよ?
そんなことよりもだ…
何か、とても重要なことを忘れているような気がした…
それはとても大事な言葉…
あぁ〜!
あんな終わり方だったから、いつものアレがなかったんだ!
そう考えると何かもの凄く不安になってきた…もうアキラとは会えないんじゃないかってさ…
僕は駅を…大時計を目指して走る走る…アキラを探して走る走る。
あの言葉を交わすために…