初恋はインパクトとともに ♯4/ステップアップハートビィト-10
「では忙しいから私は行くな」
先生は立ち上がるとパンパンと体を払い、衣服を整えた。
その露出度の高い服装は…青少年の僕にはその…刺激が強すぎです。
どうして女の子って、冬でもあんな格好できるんだろうか?寒くないの?我慢強いの?
「あれ?暇つぶしで来てたんじゃないの?」
「誰が好んでこんなむさ苦しい場所に来るか!」
「だよねぇ」
先生は歩き出そうとして再び歩を止めた…
今度は何よ?
「風邪には気をつけるようにね?この時期に風邪ひくのはバカだぞ?それに…海都に受からなかったら承知しないからな!」
(バカは風邪ひかないって言うんじゃ…)
まぁ、そんな事を口に出せばまた話がややこしくなる訳なんで…
「分かってるよ。つうか早よ行け!」
僕は急かすようにちょっと突き放すように返答しておいた。
「昔の茜はそんな事言う子じゃなかったのに…」
(この人もカイみたいな事言うんだよなぁ)
先生はまだ何か言いたげだったが、急を要したのか携帯を手に取りながら去っていった。
直後に十兵衛から長々としたメールが…
「俺にかよ!しかも打つの早すぎ!」
(ホントに世話好きな人だよな…姉御肌ってやつだ)
いつの間にやら顔が綻んでいた笑っていた…
(うぅ…いいように調教されてるのかも…いかんいかん!)
まあ、こうやって心配してくれる人が近くにいるってのは嬉しいんだけどさ。
うちの両親って放任主義だしね…。
(まぁ、祖父母と疎遠になってるのは俺の原因なんですが)
時計を見たら、まだ11時半を過ぎたとこだった…
(何か気疲れしたよ俺は…)
僕はまたベンチに横になり、ふあぁ〜!とアクビ。今度こそ一眠りしようかと、僕は目を閉じた。
今日の私は…すこぶる調子が良かった。
気持ちよいくらいに技がキレイに決まる決まる。
茜のおかげだろ〜うりうりぃ!だって?
うむぅ…否定はできないかな。
実は、私が剣道を始めたのは中学に入ってからなんだ。それまでは竜童児流の剣術を学んでいたから…剣道と剣術ってのは同じようで結構違うんだ。
刀と違って竹刀には氣が通わないし、軽いから力加減が微妙に違ったりする。それに打ち所によって一本入るか入らないかの判定が結構シビアなんだよ。
だから私は剣道家としてはまだまだ未熟だ…学ばぬばならぬことが山ほどある。
できたら茜とも…なんて思ったりしない訳でもないんだが、茜はなんでだか剣道をやめたらしい。今度、理由を聞いてみようと思うんだが…軟弱な理由ならば無理やりにでも刀を握らせてやるんだ……。
あれからどれくらいの時間が過ぎただろうか…
僕の意識はウトウトとして朦朧としてきていた。
何か空気がぬるくってネットリしていて、まどろんで気持ち悪い。
(あ〜も〜暖房強すぎなんだよ!)
なんかもう意地になって無理やりにでも惰眠を貪ってやろうかと思っていたその時だった…
「おまえ…朝比奈だな?」
と、何だかむさ苦しい集団を引き連れた男に声をかけられた。
今度は何ですか?さっきと同じパターン…しかし、その声は同年代の男の声だった。
「俺の事、覚えてるよな?」
ちょっと顔を覗いてみたけど見覚えのある顔じゃなかった…
(誰だろうか?山田?佐藤?鈴木?)
仮に山田君と呼んでみようか…
「山田君?」
「誰が山田やねん!」
山田君ではないようだ…なんか嫌な予感がする…どうにかこうにか切り抜けたいものである。
「ふざけてるのか?それともマジに分からないのか?」
ここにいるって事は昔試合したことのある奴だろうか?でも…
「マジに覚えてないです。」
すると男は竹刀を突き出して…
「…何かイメージがかなり違うが…とにかく!俺と!勝負しろ!朝比奈!」
何か無駄に熱い奴だな…苦手なタイプなんで…
「嫌です。」
とりあえず断っておいた。剣道はもうやめたんだしさ。
「…そうですかぁ〜。って簡単に引き下がれるか!」
「お、俺はおまえに負けてからぁ〜」
僕はここでまだ寝転んでいたことに気付き、起き上がった。
(漫画とかドラマとかで良くあるパターンだよな…決闘のあとに友情が芽生えたり。俺の屍を越えていけ…な展開になったり。うわぁ恐れ入ったよ僕の負けだぁとか言ってみたり。)
彼の思惑に皆目見当もつかない僕は、早くこの場を切り抜けたくって軽い気持ちで言葉を発した。
「いやぁ、君は強かったよ?俺もう剣道やめちゃったから…はは」
僕は別にふざけた気持ちじゃなかった…ただ、彼がどれだけ真剣だろうと、僕に非があったのだとしても、決闘を受けるつもりはなかった…だけなんだけど。
「俺が強い?おまえにかなわない?バカ言うな!俺はおまえに剣道で負けたんじゃない!おまえの剣道はただの……」