「瓦礫のジェネレーション」-27
助手席側に身を乗り出した健志の顔が近付き、かおりの唇がふさがれた。熱い舌が唇をわって入り、口の中を愛撫する。右手がブラウスのすそから差し入れられ、左胸に触れてくる。指先がブラ越しに乳首をとらえると、強弱をつけてつまんでくる。ひざの上でそろえられていた両手は手首のあたりを健志の左手に捕まれていて、抵抗を封じられている。
唇をふさがれたままの愛撫に息苦しくなったかおりが首を振って逃れようとすると、健志は右手だけで器用にブラウスのボタンを外し、ブラをずらした。露にされたカフェオレピンクの蕾を、唇でとらえる。
「あ……やめ…て」
かおりがか細い声をあげる。息が弾んで、鼻声になっている。健志の右手と唇は左右の蕾を交互についばんでいる。色白の胸がうっすらと赤味をおびてきた。
「はあ……ん」
拒絶の言葉を発していた口からは、いつのまにか甘い息が漏れていた。ときおり、声を出すまいと耐えているのか、唇を閉じて
「ん、くぅ……」
と鼻をならす。目を開けていられず、眉間にはしわが寄っている。もうかおりの手は抵抗を試みようとはしなくなり、健志は手首を掴んでいた左手を離すとシートと背中の間に差し入れてブラのホックを外した。柔らかな乳房に頬擦りしてから、再び乳首を責め始める。
かおりは両方のひざをもじもじと擦りあわせている。
(どうしよう……またこの前みたいにおかしくなっちゃう。そんなの、そんなの嫌。でも……私の体、どうなっちゃったの?)
体の奥から熱いものが沸きあがって全身に広がっていく。健志の左手が脇腹を軽く撫で上げると、
「ああっ……」
と高い声が出る。せきを切ったように、かおりの口からは甘い息に混じって切れ切れの高い声があがり続けた。だんだんとその声がせっぱつまった感じに変わる。
健志は耳もとで
「かおり、いいよ、イケよ」
とささやくと耳たぶを甘咬みした。
(い………!)
かおりの体が一瞬硬直し、それから何度か小刻みに震え、ゆっくりと力が抜けていった。
健志は、肩を上下させて荒い息をしているかおりの脇に手を伸ばすと、自分の方へ抱き寄せ頭を両腕でしっかりと抱きかかえ、いとおしげに髪を撫で始めた。
真っ白になっていたかおりの頭の中に少しずつ感覚が戻る。耳もとに健志の心臓の鼓動が伝わってきた。かおりのそれと変わらないくらい速いリズムを刻んでいる。
「かおり……」
健志がほんの小さな声でつぶやいた。
(え?何?なんなのこの気持ち……)
かおりの胸は甘酸っぱいようなくすぐったいような暖かいもので満たされていた。
「そういえば昼飯食ってないんじゃないのか?」
車は来たときに通った峠道を街に向かって戻っている。ハンドルを握った健志は何ごともなかったような口調でかおりの方を見ようともせずに言った。かおりは突然に自分の空腹を思い出したが、なんと答えていいのかわからずに黙り込んでしまった。
「ちょっとこじゃれたイタリアンの店があるんだけど、パスタ嫌いか?」
「嫌いじゃない……です」
やっと口を開いたかおりに安心したように、健志は話し始めた。
「じゃあそこで決まり。あ、ところで、この前帰ってから叱られなかったか?」
「いえ、『今度からは外泊するのなら事前に知らせておくように』って注意されただけ」
「へえ、物わかりのいい親父さんだな。何してる人?」
「……あの、私、父はいないんです。母は看護師をやっていて、ホスピスの担当なんです」
「あ、ごめん。悪いこと聞いちゃったね。ホスピスって、どこの病院?」
「中条記念病院って、このへんでは一番大きいから御存じですよね」
健志の表情が一瞬曇る。中条記念病院だって?俺の家じゃねえか。
「まあね。あ、俺一応医者の卵だから。まだ学生だけど」
「医学生、なんですか?」
信じられないといった表情でかおりが尋ねる。さっきまでの緊張はだいぶほぐれたようだ。
「そうは見えないと思ってるだろ?俺もそう思う。でもこれで結構優秀なんだぜ」
実際、健志は親の寄付金で合否が決まるようなボンクラ私大に通っているわけではなく、県内にある国立S大学の医学部の学生である。普通に考えれば相当なエリートなのだ。