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『てらす』
【歴史物 官能小説】

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『てらす』-17

「や、やめ――ああっ!」

言葉にならなかった。
ぐちゃぐちゃと、老人の指が音を立てる。
頭の中までかき回されているようだ。
何も考えられない。
融の顔を思い浮かべようとしても、すぐに儚く霧散してしまう。
どんな時でも、融の事を考えれば心が落ち着いたのに。

「あっ、いやっ、うああ」

搾り出されるように声を上げてしまう。
どんなに抑えようとしても、どんなに抗おうとしても。
もはや私には一欠けらの自由もなかった。
力の抜けた口もとから涎が零れだすのすら、止めることはできない。
頭の中が白く濁っていく。
老人が私に触れている。
たったそれだけのことなのに。
老人の指はどうなっているのだろうか。
私を取り巻く世界は老人の指に支配されていた。

「も、もう、やめ、あう、ああ、あひい」

じゅぶじゅぶと音を立てる指。
その指に、私は為す術を持たぬまま翻弄されつくして―。
私が私ではなくなっていく。
稲妻のような感覚が絶え間なく襲ってくる。
その都度、私は崩壊していくのだ。
跡形もなく。
私が―。
わたしは――。
わ、た―――。



「そろそろ、ですかな」

不意に老人の動きが止まった。
瞬間、全身から力がだらりと抜ける。
その時、私は自分がどれほど身体に力を入れていたのか思い知った。

「…あ、うあ?」

徐々に真っ白だった世界から、現実に戻っていく。
回復していく視界。
液体でべちょべちょになった自分の指を旨そうに舐める老人。
細い目を瞬きもせずに見開いて私を見つめる兄。
私を取り巻く現実。

「さあ、隻様。準備は整いました」

激しい運動をした後のように、心臓の鼓動が早い。
身体が火照っていた。
汗で髪が身体に張り付いている。
私はどうしてしまったのだろう。
酷く暑く、息苦しい。

「媚娘」

誰かに名前を呼ばれて、顔を上げた。

「……兄様?」

焦点の上手く合わない視界を持て余しながらも、兄の姿を確認する。
裸の兄。
萎びていて、血色の悪い灰色の体。
その中心に、そそり立つ細長い肉の棒。

「―ひっ!」

それが何であるのか、考える前に、足を持ち上げられた。
支えるものが天井に吊り上げられた手首だけになって、鈍い痛みを感じる。

「いくよ、媚娘。私と一つになろう」

兄の腰が、私の股間にあてがわれる。
火照っていた身体が一気に寒くなる。
不意に思い出される侍女とのたわいもない会話。


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