『てらす』-16
「そんなことは些細な問題にございます。現に隻様は、貴女をずっと想っておられた…」
兄の身体がびくっと震える。
乳首に感じる舌の動きが止まった。
「あうっ！」
急に激しく動き出す兄の舌。
何かを振り払うように、兄の舌が動き続ける。
「貴女は選ばれたのです。功夫を積んだ私も、貴女を選びました」
じりじりと近づく老道士。
部屋の灯りを背にして、道士の顔に影が落ちる。
ひどく邪悪な、獣のような顔。
「貴女は実に、精力に満ち溢れている…。素晴らしい」
道士が何を言っているのか理解できなかった。
それでも、確かに感じる狂気と恐怖。
この男に道理は通じない。
誰か。
こんなのは嫌だ。
誰か、助けて……。
「………っ！」
不意に。
浮かんでくる融の顔。
たまらなく愛おしい少年の顔。
それでも、今この場所には融を感じることは出来なくて―。
ぴちゃぴちゃ。
なおも兄は乳房を舐め続ける。
昼間、融を抱きしめた胸の上には、大嫌いな兄の顔があって―。
「きゃっ！」
突然、足を持ち上げられる。
いつの間にかにじり寄っていた道士。
皺くちゃに萎びた指が、太ももに食い込んでいる。
痛い。
次いで感じる陰部をさらけ出している事への恥ずかしさ。
冷え切った夜の空気が股に当たる。
「何を―！」
ぬちゃり。
湿った音。
いや、音ではなく感覚。
私の身体の、陰部の方から―。
「くっ――！」
電撃が走った。
今まで感じたことのない感覚。
―何これ。
痛いくらいに激しい感覚。
何がなんだかわからない。
けれど。
―これは、ダメだ。
それだけを強く思った。
必死に腰を引く。
「逃がしませんぞ」
「あがっ！」
頭の中に閃光が走った。
何も考えられない。
視界が霞んでいく。
おぼろげな視界の中に映る、狂気に歪んだ二対の瞳。
「随分、感じやすいお身体のようで…」
老人がいやらしく笑う。