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『てらす』
【歴史物 官能小説】

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『てらす』-22

あれから、何日が経ったのだろう。
私は、屋敷の奥の部屋に移され、監禁された。
部屋には無骨な桶があるだけ。
陽の光も差し込むことはない。
手足は拘束され、私には本当に一片の自由も残されずに。
来る日も来る日も、私は兄と老人に代わる代わる犯された。
日に三度、食事を運んでくる侍女は、私と目を合わせない。
一度だけ、義母が私のもとに来た。

「…汚らわしい」

義母はそう呟いて、低く笑った。
私は壊れてしまった。
あれだけ心に強く刻み込んでいた融のことを思い出すことも、今はなくなった。
私は、本当に、壊れてしまったのだ。
ただ―。
あの時の老人の言葉が脳裏に浮かぶ。

―まるで天下人のような。

天下、という言葉。

「ああ、媚娘! 媚娘!」

今、私の目の前では、兄がせこせこと腰を振っている。
あれだけ嫌がってはずの兄に、嫌悪感を抱くことはなくなった。
それどころか、私に夢中になって腰を振り続ける兄を愛おしくすら思う。
男とはみんなこういうものなのだろうか。
融だってきっと―。

「もうダメだ。媚娘っ!」

兄が私の中で果てる。
火照った身体を持て余す私は、埃っぽい天井を見上げる。
窓一つないこの部屋では、空を眺めることは出来ない。
ただ、想像するだけ。
星々が散りばめられ、明るい月に見守られた大空を。
無限に広がる天を。
ふと、自分の身体に目を落とす。
かび臭い部屋に閉じ込められ、汗と精液に塗れている自分の姿を。
なんとかけ離れていることか。
私の背中に手を回して、兄は荒い呼吸を整えている。
もう嫌というほどに馴染んでしまった兄の肉体。
私は、どれほど汚れてしまったのだろう。
どれほど―。
かつて、融と眺めた広大な青い空。
全てを包み込んでくれそうな蒼穹。
どれほど、今の私はあの大空から遠い場所にいるのだろう。
だからか。
離れれば離れるほど。
失えば失うほど。
こんなにも強く求めてしまう。

「天下を……」

そんな私の呟きは部屋を包み込む静寂に飲み込まれてしまう。
今は、まだ……。


                                 『てらす』 了


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