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『てらす』
【歴史物 官能小説】

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『てらす』-15

「いやだ、いやああああああああ!」

声の限りに叫ぶ。
この信じられない状況から逃れようとして、気づいた。
身動きが取れないことに。
手首が、頭上で縛り上げられている。
どんなに力を込めてもびくともしない。
天井の梁から吊るされた荒縄。
身をよじろうとすると、縛られた手首にぶら下がっている状態の両肩が痛む。
わずかに胸を反らせても、兄の舌は執拗に追ってきた。
兄の顔は無表情。
死んだ魚のように濁った瞳で、私の乳首を吸い始める。

「やめて、兄様。おねがいだから…」

懇願の声をあげても、兄の動きは止まらない。
狂ったように、乳首を吸い、乳輪を嘗め回した。
ぞくぞくとしたものが背筋を駆け上がってくる。

「その調子ですぞ、隻様。優しく、壊れ物を扱うように…」

不意に聞こえる老人の枯れた声。
兄の背後に立った老人が、血走った目を爛々と輝かせている。
母の呼んだ道士。
兄はこの道士の邪悪な術にでもかかってしまったのではないか。
私の目を見ようともせず、ただ狂気に歪ませた顔を乳房に向ける兄を見て思う。

「兄様に、何をしたの?」

ぴちゃぴちゃと兄の舌が這いずり回る音を聞きながら、道士に問う。
すっ、と兄の指が乳房に触れる。
堪えようのない不快感。
道士の返答を待つ間、自分の胸を兄にも、この得体の知れぬ道士にもさらけ出してしまっていることに気づく。
恥ずかしさがこみ上げてきた。
耳が赤くなるのを感じながら、俯けば兄の顔。
おずおずと乳房を揉みながら乳首を吸う、半分は血の繋がった兄の顔。
じゅ、じゅと兄に吸われた乳首が水音を立てる。
私は思わず目を閉じた。
そうすると、閉じられた視界の中、感覚だけが鋭くなっていって―。

「う、あっ―」

うめき声が漏れた。
こみ上げてくる羞恥心。
ぞくぞくとした感覚。

「隻様のためでございます」

老人の声が聞こえる。
熱に冒されたかのように、上ずった声。

「隻様が晴れて任官され、立派な士大夫になるためには」

兄に嘗め回される乳房が熱い。
都で売られている水飴のように。
乳房が兄の舌で解かされてしまう、と思った。

「必要なのでございます。若い女性の精が」

近づいてくる老人の声に目を開けば、すぐ傍に老人の皺に覆われた顔があった。
相変わらず、その瞳だけが、老人とは思えない精力的な光を帯びる。

「わ、わたし達は、兄妹…」

頭まで熱くなって、口が上手く回らない。
抵抗しようとしても、手首を縛る荒縄は頑丈で身動きが取れない。
熱くなった頭で感じる、焦燥と絶望。


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