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『てらす』
【歴史物 官能小説】

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『てらす』-14

「やめて、兄様。離して」

「着物が濡れているじゃないか。どうしたんだい、媚娘」

兄の手がぎこちなく身体を撫で回す。
おずおずと、べたべたと。
耳のすぐ傍で感じる、兄の呼吸音。
嫌になるくらい荒く、湿り気を帯びている。
私は、身が粟立つのを感じた。

「寒くないかい。私が暖めてあげるからね…」

遠慮がちな兄の手。
その手が、私の胸元に伸びてきた時、頭が熱くなるのを感じた。

「やめてったら!」

兄の腕を力ずくで振り払う。
女の細腕でも、兄の腕は簡単に振り払えた。
よろめいた兄が、積み上げられた薪の上に倒れていくのが見える。
がらがらと、大きな音。
散らかった薪の上で、兄は腰に手を当てて呻く。

「何をするんだ、媚娘」

「兄様がいきなり変なことをするから……うっ!」

鈍痛。
不意に腹部から感じる痛み。
ゆっくりと花が咲くように。
私の腹部からじわじわと痛みが拡がっていく。
…苦しい。
呼吸が、できない。
一歩、二歩とよろめいて。
私は、自分の意識が遠くなっていくのを感じた。





水の音が聞こえる。
小さな水滴が落ちる音。
ぽちゃん、と。
等間隔に、一滴、また一滴。
水滴の音に混じって聞こえる人の声。
男の人の声。
会話している。

「……今更、何を怖気づいているのです」

「……わかっている」

私はゆっくりと目を開ける。
先ほどから、ひんやりと肌寒い。
胸元や脇の下に風を感じる。

「おお、媚娘様が目を覚まされましたぞ」

ぼやけた視界に映るのは、皺に覆われて縮んだ老人の顔。
そして、すぐ目の前にある、兄の顔……!?

「――ひっ!?」

声にならぬ、悲鳴をあげる。
息のかかりそうなほど近い兄の顔。
次いで感じる、肌の違和感。
ぴちゃぴちゃ。
兄の舌が、私の乳房を嘗め回していた。

「いやああああああああ!」

叫んだ。
居ても立ってもいられなくて、叫んだ。
気づけば、上半身があらわになった己の身体。
着物は腰の辺りまで擦り下ろされている。
ざらざらとした兄の舌。
不気味な青紫色の兄の舌が、乳房の上を這いずり回る。
舌が這った後に出来る、湿った光の筋。
兄の唾液に、わずかな部屋の灯りが反射しているのだ。


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