恋人に捧げる舞子の物語(黎明編)(その2)-7
どうして…
あの鏡の前だったから…
衣服を身につけたまま、抱きすくめられるように床に押し倒されたあなたは、スカートの
中からショーツを恋人に剥ぎ取られ、性器だけを貪られるように求められた。
ズボンとそのトランクスを膝まで降ろした恋人にあなたは乗られ、まだ堅さのないものを
無理矢理に挿入された。そして彼が尽き果てるまでの長い時間、あなたは喘ぎ声すらあげる
ことなく、ずっと冷めた瞳であの鏡に写った他人のような自分の姿態だけを見つめていた。
彼がいつ射精したのかも気がつかなかった…
だからあなたは、恋人と別れることを決めた。
恋人と別れ、儚げに喘ぐ肉襞の窪みを引きずり続ける日々…。過ぎていった歳月の奥に、恋人
のすべてが霞んでいくのが怖かった。
大きな鏡に映ったあなたの白い裸の中にある心を憐み、蔑むあなた…。あなたはそのわずかに
弛みはじめた乳房を指で強くつかむ。
…私は、Mになりたい…それは、Mへの果てしのない渇望…
体の隅々まで、素直さが満ちあふれるような癒された性を、限りなく深く感じたかった。その
悦びは、縛られた心と体があってこそ初めて与えられるものかもしれない。
…私は今でもあの人を忘れることができないのだ…。
あなたにどこか懐かしさと憧れを運んでくるように、闇はしだいに透明な空に澄んでいく。
あなたの咽喉元を緊める首輪の心地よい被虐の酩酊感が、晒された素肌全体を薄い膜で覆い尽く
すようだった。犯される前の処女のような蒼いときめきのようなものが、しだいに陰部から
体全体に拡がり、淡いさざ波のように脈打ち始める。
バルコニーから階下に拡がる見なれた街の風景が、いつの間にか靄に包まれた黎明のときを迎え
ていた…。