強引な恋-3
「でもさぁ何でそんなにえなは嫌がるの?ポチって背は高いし、顔だってかっこいいし、優しいし…まさに理想じゃん」
確かに奴は万人受けする部類だろう。でもそれはあくまで離れて見る分にはの話し…。
「それに…あんた最近よく笑ってるよ」
あたしは先輩にふられてから前より暗くなった。友達も心配してくれて敢えてその話しは避けてくれていた。よく考えてみれば確かに最近先輩のことで病んだりしてないかも。奴といると余計なこと考えなくて済む(考える暇がないだけだけど)。奴にちょっとは感謝しなきゃだな。
キーンコーカーンコーン…
昼、奴は部活のミーティングで一緒にいなかったし、無事にこの日の授業は終わった。よし、今日は朝も奴から逃げられたし、放課後だって邪魔させられてたまるもんか!!
「ねぇ、久しぶりにカラオケでも行こうよ」
「いいねぇ〜♪でもポチは?」
「平気平気」
至福の時ってこういうことを言うのかなとか考えたりなんかして、友達とばか話ししながら下駄箱に向かった。あ〜あたしもふつうの女子高生じゃん♪浮かれていたのもつかの間、‘がしッ’!?突如寒気があたしの体全体を襲う…
「澤口先輩どうして僕を置いてっちゃうの??」
おそるおそる振り向くと…やっぱり。あたしの至福は一瞬で崩れ去った。ばいばい青春。
「あれ〜ポチじゃん?」
「か、関係ないよ。行こ」
「先輩達、澤口先輩と遊びに行くんですか??」
こいつ演技してる。目ぇうるうるさせやがって。心なしかしっぽまで生えてるぞ。
「ばかちーん!!」
その瞬間、あたしは吹っ飛ばされた。
「ポチが寂しがってるのにあんたを連れてカラオケなんか行けるか!!」
そう言われてあたしは集団リンチを受けた。
「ポチ、えなに可愛がってもらいな。姉さん達邪魔者は帰るからさ」
そして去って行く友よ…待って〜置いてかないで〜みんな騙されてるだけだよ!!こいつは猫かぶってるだけなんだよ!!
「猫じゃなくて犬だも〜ん」
奴は隣でにやにや笑ってる。
「俺から逃げられるとでも思ってるの??」
「すいませんでした…」
はぁ…やっぱり前言撤回。奴に感謝なんかするもんか。
悪夢の日々から約1ヶ月が経とうとしている。友達を味方に付けた‘ポチ’にあたしは自由を奪われた毎日を過ごしている。
「もうすぐ中間だねぇ」
「えぇそうですね」
うちの学校は他よりテストがちょっと早い。きっと補習を夏休み中にやらない分、早いのだろう。まぁ奴のせいで授業もろくに受けてないから、早かろうが遅かろうがテストはぼろぼろに違いないけど。
「俺が教えてやるよ」
なんて言って奴は隣で笑ってやがる。でも同じ量さぼってる彼ですが、成績優秀なんです。それもまたむかつく。
「テストの結果に傷ついたえなちゃんを俺が癒してあげるから安心して」
いやいや癒されてません。
「つってもえなちゃんの笑ってる顔が見たいだけなんだけどね。えなちゃんが隣で笑っててくれれば俺はそれだけでいい」
「ばか…」
そんな恥ずかしい台詞よく平気で言えるよ。あたしは奴の顔を見れなかった。今のあたしの顔、絶対赤いから。素直に喜べなかった。でもね、ほんとは凄く嬉しかった。‘隣にいてくれれば俺はそれだけでいい’あの人に望んでいた言葉。でもあの人にとってあたしはごく一部し過ぎなかった。奴には悪いけど、あたしはもう恋なんてしたくない。どうせ別れが来るんだから。
その日の夜、なぜか奴のことばかり、頭に浮かぶ。奴が変なこと言ったせいだ。