LAST DAY-3
「明日で世界は終わるんだ」
「え……?」
「今日で最後なんだ、だから、大丈夫なんだよ」
そう、もう何も心配しなくていいんだ。もう苦しまなくていい。痛い思いもしない。我慢する必要なんてない。もう、もう大丈夫。大丈夫なんだよ。
僕はもう動かない男の横にしゃがみこんで、どろどろに濡れた包丁を手に取った。ぬめる刃先をズボンで拭う。
「明日香、ごめんね、僕はもみじのところへ行かなくちゃ。だから先に行ってて。すぐに僕も追いかけるから」
「なに、を」
「ごめんね。明日香を悲しませたくなかった。知られないうちにこいつを殺したかった。僕がこいつを殺したら明日香は悲しむってわかってたから、ずっとできなかった。だけど明日で終わるから。だから明日香、ごめん。でも、もう大丈夫だから」
あいつを殺したときとは違う。なるべく優しく、苦しまないように、僕は明日香の心臓があるあたりを強く刺した。ずぶりと包丁が刺さったままで明日香が後ろに倒れそうになるのを慌てて受け止める。開いたままの瞳が、僕をじっと見ていた。
もう苦しまなくていいんだよ。
明日香の幸せだけが、僕の願いだよ。
先に行ってて、すぐに僕も追いかけるから。