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LAST DAY
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LAST DAY-2

 カタン

 小さな音に顔を上げたら、時計がちょうど九時を指していた。学校ではもう一時間目が始まってしまっている。僕はもう学校へ行く気はなかった。一つ、ため息をついて、台所に向かう。
 明日で世界が終わるというならば、僕に残された時間はあと十五時間ほど、だろうか。でももうやりたいことはないし、やらなければいけないこともない。蛇口をひねってコップに水をくむ。いっきにあおって、飲み込んで、またひとつ息をついた。なんだ、こんなにも簡単なことだったんだ。なんて体が軽いんだろう。ずっとずっと僕に重くのしかかっていたものがするりと落ちたみたいだ。もう、大丈夫。

 もうなにも心配することはない。

 あとは、そうだ、僕はもみじのところへ行かなければ。彼女との約束を果たさなくちゃいけない。僕と同じような苦しみを抱えた彼女に、僕が少しでも力になれるならば……。


「……おとう、さん?」


 声がした。

 カシャンという音が僕がコップをおとしてしまった音で、でもそんなことを気にする暇もなく居間へ走っていけば、いたのは、呆然と立ちすくむ、


「……明日香……どうして」

「お兄ちゃん。ねえ……お父さん、どうしたの?」

「ダメだろ、ちゃんと学校に行かなくちゃ。昨日せっかく数学の宿題をやったんだから、ほら、今日は先生にみてもらうんだろう?」

「ねえ、お父さん、どうして血だらけなの?どうし、て」

「そんなんじゃまた怒られちゃうよ。今からでも間に合うから、僕と一緒に学校へ……」

「お兄ちゃん!!」


 明日香が大きな声で僕の言葉をさえぎった。


「なんで……お兄ちゃん、が、やったの……?」

「そうだよ」

「どうして!」

「どうして?」


 だって、あいつは僕らを幸せにしない。


「なんで、どうして、お兄ちゃん……こんなことしたら、お兄ちゃんは、どうなるの」


 優しい明日香。僕の心配なんかしなくていいのに。


「あんな人放っておけばいいんだよ、お兄ちゃんが不幸にならなくたって、あんな人のためにお兄ちゃんが苦しむのは、いやだよ、なのになんで!」

「……明日香が不幸なのも僕は嫌だよ」

「明日香は大丈夫だよ!だってお兄ちゃんがいるもん。だから大丈夫、大丈夫なんだよ、お兄ちゃんがいてくれれば、どんなに叩かれても大丈夫なんだよ、でも、でも、お兄ちゃんがいなくなったら、明日香は、どう、したら……」


 大丈夫だよ、明日香。


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