官能の城（４）-1
（１８）
ジャンヌがフィリップとの恋を実らせている頃に、
彼女の唯一の理解者であり、
最も身近な姉妹のような存在であるアンナの身辺にも
変化が起きていました。
やはり若い年頃の女性にとっては、
その身体から発散してくる性への憧れと
願望を抑えることが出来ないようです。
アンナはジャンヌが時々フィリップとの束の間の逢瀬を見るにつけ、
それを祝福しながらも
まだ相手のいない自分を寂しく思っていたのです。
ある時にアンナにもそんなチャンスが巡ってきたのです。
それを思いも掛けないことなのですが、
マーガレットの恋人であるクリスの部下で
ピエールという若者との出会いだったのです。
クリスは女性を引きつける天才ではあるのですが、
武芸にも秀でていましたので、
彼の部下にも時々剣術の指南をしていました、
ある日のこと
彼の部下であるピエールに剣の手ほどきをしているときのことです。
その時ピエールの剣の受け方が悪く
彼は手に少し彼我をしてしまいました、
偶然そこに居合わせていたアンナは彼にその怪我の治療をしたのです。
アンナは、特別に彼を意識したのではないのですが、
ピエールは、彼女の心からの献身的な介抱と、若く美しい姿に心を奪われ、
次第にそれが恋心に変わっていったのです。
ピエールはクリスが特別に眼をかけている若者でした。
彼の一途さは、
立派な軍人であるクリスに少しでも近づきたいと思う純粋な若者でしたが、
心ならずも聞くクリスの中傷には
いつも心を痛めていたのです。
そのピエールはふとした自分の怪我がきっかけで
アンナと知り合い可憐なその彼女に恋をしたのです。
ジャンヌはそんなアンナにも好きな人が出来たことを
心から喜び祝福したのです。
幼い頃から二人で
異国からマーガレットの従者として義務づけられ
自分たちを抑えていたことがここで
ようやく幸せな道を歩こうとしているのです。
しかし、
この後ようやく見つけた幸せは
この薄幸で純粋な若い二人の乙女の仲さえも
過酷な運命によって引き裂かれることになるのです。
それはアンナの恋人であるフィリップは
リチャードの教育係である父のマークスの長男であり、
彼女とは姉妹関係のジャンヌの恋人はリチャードと敵対する
クリスの秘蔵っ子のピエールだからなのです。
その時にはアンナとジャンヌ、
そしてフィリップとピエールも
その苛酷な運命に、自分たちが曝されると思っても見ませんでした。