操れるかも! 操られるかも!?-2
「じゃあ贈り物ってのは何なんだよ」
俺はあからさまにいらいらした口調で親父に尋ねる。
「圭一、短気は損気だぞ。それはいいからまずはとにかく
このかつらをかぶれ」
「なんでだよ」
「私の都合だ」
「なんなんだよそれ」
「かぶったら教えてやろう」
「やだね、アホらしい」
「そう言わずに」
俺は親父のあまりのしつこさに怒りを通り越して呆れ始
めていた。そしてかつらを取り出した後放り出されてあっ
た紙袋を拾いあげ、中を確認する。
「……この紙袋にはもう何も入ってないし、他に何か持っ
てきてるわけでもないようだし……ホントはやっぱりその
かつらなんだろ? 贈り物って」
「違うと言っとるだろう」
「正直に言えよ。ジョークのつもりがうけなかったって」
「だから、違うと言っとるだろう」
「……あきらめが悪いぞ」
再びいらいらした口調になってきた俺に、親父はやれや
れというように肩をすくめる。
「しようがないな」
「な、なんだよ」
俺を見る親父の目つきが鋭くなった。俺は俺の記憶にな
い親父の眼の鋭さに不気味なものを感じて気圧される。
しかし親父なんかにびびらされるわけにはいかないと思
い直して俺もまた目つきを鋭くして睨み返した瞬間、親父
の目が一瞬光ったように見えた。すると直後に俺の頭の中
でパシンと何かが弾けるような音が鳴った……ような気が
した。
「な……なんだ?」
親父が突然大きな声で叫ぶ。
「このかつらをかぶるのだ、圭一!」
次の瞬間……俺は親父の手からかつらを奪い取り自ら頭
にかぶせてしまっていた。
「げ……な、なんで?」
「ふふふふふ」
「お、親父?」
「ふあっはっはっはっはっ……どうだ、我が斉木家に代々
伝わる『他人を自由に操る力』の凄さは!!」
突然高笑いを始めた親父の言葉に俺は正気を疑った。
「……はぁ?」
「はぁ? とはなんだ、はぁ? とは」
「何言ってんだよ。親父がいきなりでかい声出すからつい
かぶっちまったんだよ」
俺は少し違和感を感じたが、自分の考えに間違いはない
気がした。第一、親父の言う『他人を自由に操る力』なん
て到底信用できなかった。そのまま首を傾げながらかつら
を脱ぐ。
「ふふん、そうかな?」
「……そうだよ」
親父はにやりと笑うと今度は小さな声で
「かつらをかぶれ」
と言った。
すると、俺はさっき脱いだばかりのかつらを再びかぶっ
てしまった。
「げ……」
「ふふふ……これで信じる気になったろう。斉木家に伝わ
る『他人を自由に操る力』の存在が事実であることを」
「こ、これは何かの間違いだっ」
「なんと、まだ父の言葉が信じられぬのか!?」
「あ、当たり前だっ! だいたい俺だって斉木家の人間だ
けどそんな力持ってねえぞっ」
俺は二度までも自分の意志に反して自身の手でかつらを
かぶってしまっていたが、『他人を自由に操る力』なんて
ものの存在とそもそも親父自体が信じにくく半信半疑の状
態だった。しかし、とりあえずこんな親父にだまされるの
は嫌だと思ったので反論した。
すると親父は大きく息を吸い込んで低い声で重々しく話
し始めた。
「……お前は力を持っていないのではない。私の力で封印
されているのだ」
「ふ、封印?」
「そうだ。この力は肉体的に未熟な者には多大な疲労を与
える。増しては使用を抑制するだけの理性を持たぬ精神的
にも未熟な者なら使いすぎて死をも招きかねん」
「……」
「そこで御先祖様が、ある程度肉体的成長を果たし疲労度
が大幅に軽減されるであろう年の頃……目安として十八歳
になるまでは力を使えぬように、子供が生まれたらすぐに
その子の力を、既に力を使用できる者がその力をもって封
印することをお取り決めになったのだ」
「……本当に……俺にそんな力があるのか!?」
「ある。私も御先祖様にならい、お前の力を封印した。あ
る物を『鍵』として目覚める暗示を掛けてな」
「……ある物って……」
「……」
「まさかこのかつら……とか言わねえだろうな」
「……」
「……おい」
「安心しろ。そんな物が『鍵』ではない」
「……じゃあなんだ? それに何でこんなかつら無理にか
ぶせようとするんだよ」
「……お前が生まれた時……」
「は?」
親父がいきなり遠くを見つめる表情になる。