操れるかも! 操られるかも!?-11
「中原となんかあったのか?」
大介が不思議そうに俺の顔を見る。
「なんかって……なんだよ?」
俺は視線を外したまま、すっとぼける。
「いや、放課後はいつも中原と一緒に部活に行ってるし」
「さぼろうとする前に捕まってるだけだ」
「……」
美奈子は俺の顔を凝視していた。なにかを期待している
表情に見える。
「……それにあの日……」
「……あ、あの日っていつだよ」
大介は自らの記憶を一生懸命辿っている。俺は焦りのあ
まり余計なことを口走ってしまう。
「……ほら、お前が練習に復帰するって言った日だよ」
……それを言ったのはお前と千佳だろ、と言いたかった
が今度は黙っている。大介の記憶中枢をこれ以上刺激した
くない。
「……お前、中から部室に鍵かけてなかったか?」
「え〜っ、鍵のかかった部屋で千佳ちゃんと二人きり?」
美奈子はきた、とばかりに大声で叫ぶ。
「大介はそんなこと言ってないだろ!」
「……違うの? 大介ちゃん」
「……う〜ん、あの時中原は確かにいたんだが……部室の
中にいたのか、外にいたのかいまいち記憶にない」
「……絶対中にいたんだよ。さっきから態度がおかしいも
ん……エッチなことしてたんだよ、きっとそうだよ」
「推測でものを言うな!」
「怒鳴り出した! ますます怪しい〜」
「俺のどこが怪しい!」
自分自身かなり怪しいとは思うが、それを美奈子ごとき
に指摘されるのはむしょうに腹が立つ。
「まあまあ、圭一君も落ち着いて。美奈子、そんなこと勝
手に決めつけるのは千佳ちゃんにも失礼でしょ」
由希子さんが見かねたのか助け舟を出してくれた。美奈
子はつまらなそうに口を尖らせる。
「ぶぅ〜」
美奈子はその後もこの話題に話の流れをもっていこうと
していたが、大介の方が由希子さんを気にしてか話をそら
してしまい、とうとうこの日は再びこの話をすることはな
かった。背中に美奈子の不満そうな視線を感じながら俺と
大介は喫茶店をあとにした。
まさか真夜中に再びこの喫茶店に来ることになるとは、
その時は思いもよらなかった。
……………
コンコン
……?
コンコン
……ドアをノックする音?
コンコン
……うっせえな……クソ親父、何時だと思ってやがる。
コンコン
俺は部活で疲れた体を起きあげると、眠い頭に血を上ら
せてドアを開ける。
「こんな夜中に何の用だ……よ?」
俺の部屋のドアの前に立っていたのは親父ではなく美奈
子だった。
「し〜っ、静かにして」
そんなことを美奈子が言った時には、俺は既に驚きのあ
まり声を失っていた。
「……圭ちゃん、ちょっとついてきて」
美奈子は声をひそめて俺を手招きする。俺は半分寝ぼけ
てよくわからないままに美奈子のあとをついていく。
「……どうしたんだよ、こんな時間に。それにどこから家
に入ってきたんだ?」
俺はあくびを噛み殺しながら美奈子に尋ねる。
「……玄関の鍵、今開いてるよ」
「え? 玄関の鍵なら俺が確かに……」
「おじさんが開けていったのよ」
「親父が?」
「おじさん、今この家にいないよ」
「へ?」
「おじさん今、私の家に来てる」
「え?」
「……」
「ど、どうして?」
「……さっきそ〜っと家に来てね……」
美奈子の声が一層辺りを忍ぶように小さくなる。
「……今、お姉ちゃんと……エッチしてる」
「な!? なに……」
「! し〜っ、し〜っ!」
叫びかけた俺の口を美奈子の手が塞ぐ。美奈子の手の柔
らかさに一瞬ドキッとして出しかけた大声が消える。
俺はなんとか落ち着こうと軽く呼吸を整えて、
「……う、嘘だろ!?」
と聴くと、美奈子は無言で首を振った。
俺の頭はほんの数時間前に見た由希子の顔を思い浮かべ
る。とてもじゃないが親父とエッチしてる図など想像でき
ない……