フェイスズフェターズ 一話「欲望の都市」1-4
「そうだ。こんなことをするのは魔族どもしかいない。それとカラジュスの靴職人が、明け方に死体が防壁を超えて空から降ってくるのを目撃している。そんな芸当ができるのは化け物どもだけだ。そうなると、異端審問官数人では隠密裏の調査をするだけでも死体になってくるだけだろう。異端審問局で化け物に対抗するには最低でも数十人の異端審問官と装備が必要だ。そしてそれらをカラジュス政府に悟られないまま隠密裏に運び、そして調査をして魔族と戦闘をこなす、というのは恐らく不可能だ。故に、『君たち』の出番なのだよ」
剣のような輝きを放つ枢機卿の眼光に、二人の若い女は体を強ばらせる。幾ら普段穏やかであろうと、彼の本当の姿はこれなのだ。
「これは教皇庁への、神への挑発なのだよ。教皇庁に喧嘩を売るとどうなるか、それを化け物どもにわからせてやりたまえ。存分にな」
「……状況は理解できました。では早速、今日より現地に向かいます」
「いや、新人もいることだ。今日は休んで明日海路を使ってカラジュスへ向かいたまえ。それで良いね、リタ?」
ロタリオはまっすぐにリタへと目を向けた。リタはその視線を受けて体が硬くなったが、なんとか、自分の意見を口に出す。
「いえ猊下、私なら大丈夫です。今より直ちにカラジュスへ向かいます。一日を無駄にする必要はありません」
予想していた返事と違ったのか、ロタリオは驚いたようにリタを見つめ、次に苦笑しているニコラへと目を向け、それからまたリタへ視線を戻した。そして真一文字に唇を結んでいるリタをもうしばらく見つめると、豪快に笑った。
「わかった。では直ちにカラジュスへと向いたまえ。戦乙女よ」
愉快でたまらないという風に笑うロタリオを前に、リタはすっくと立ち上がると、迷いの無い声色で宣言した。
「主と子と聖霊の御名において、信仰に仇なす魔族に神の鉄槌を下して参ります」
完璧な作法で十字を切ると、リタは神に祈りを捧げた。