フェイスズフェターズ 一話「欲望の都市」1-12
「なあジャミーラ、最近の『奴ら』は、たいそうな綺麗好きらしいな」
「……まあ、そのようですわね」
てっきり、武器商売とか、そういうものを想像していたリタは、拍子抜けして脱力している。それに対してニコラの表情は--ヘジャブを着用しているので外からは殆どわからないのだが--厳しいままだった。
「とにかく旦那様、きちんと調査してきてください。決して油断はしないように、我々が教皇庁の人間だとわかれば、きっとお風呂に入るだけでは済まなくなりますから」
声のトーンを一段落としてニコラがそっとささやく。それを受け止めて、全力で気を引き締めて、リタが歩き始めた。その耳に、ニコラがもう一度何かをささやく。軽く頷いた後に、リタは『個人浴場』に入っていった。
6
玉座に向けて、恭しく跪く男がいた。端正な顔立ちをしているが、その瞳は禍々しさを放つ紫である。部屋の中は薄暗く、明かりと言ったら本を読む玉座の男の傍らにあるランプくらいのものだ。さらに、部屋自体も非常に特徴的だ。玉座と、その下に敷かれた絨毯。そして壁はむき出しの岩だ。周囲全てが岩であり、跪く男の背後に扉があるだけの洞窟である。部屋の隅には明かりが届かず、何か良からぬものが息を潜めているような不気味さを漂わせている。今にも、何かが暗闇から手を伸ばしてきそうな悪寒、それを感じさせる不気味さだ。
「閣下、『奴ら』の居所が掴めました」
何の感情も漏らさぬ声で、男はそう報告した。玉座でゆったりと読書をしている男は短く、「そうか」とだけ返事をする。本に隠れて顔がよく見えない。いや、そもそも紫のマントを羽織り、その頭にはフードが被さっているのだから、その男の顔は本が無くともわからないだろう。声だけで男だと判断できる。跪く男は、自分の主人が何も追求してこないのを確認して、報告を続ける。
「案外簡単に見つかりました。なかなか派手なことをしてくれたおかげで、見つけるのも簡単でした。……いつでも仕掛けられますが、如何いたしましょうか?」
「敵の戦力はどれほどだ?」
本からは決して目を離さずに告げる男の声には、余裕と自信が感じられた。捕まえた蟻を前に、まず足を引きちぎろうか、それとも触覚から引き抜こうかと考える子供のような圧倒的優位に立ったときに浮かばせる余裕と自信だ。
「大きな脅威となるのは、二人です」
「それだけならば、こちらからはストルタイ二人と、後はイーハ隊を二個ほど派遣すれば問題あるまい」
ストルタイ、というのは魔族の呼称であり、主に帝国の人間が使う。帝国では魔族でない普通の人間のことはプルタイと呼ばれている。そしてイーハというのは、帝国に協力しその兵力の主力となっているプルタイの集団だ。
玉座の男が本を閉じると、その口元だけが露わになった。フードを被っているせいで、顔には闇がかかっているのだ。男の口は笑っていた。ちょっとしたジョークを思いついた紳士のような、上品な笑いの形になっている。その口を開いて、男は言う。