黒魔術師の恋愛事情〜因縁-1
ある日の放課後、そこには日常と化した光景があった。
「黒須く〜ん、一緒に帰ろう」
「いいよ、行こうか」
特技が黒魔術という少年・黒須真彦と、その彼女であり校内三大美人の一人である高坂麻里。
「全く…恋は盲目とはよく言ったもんだ」
並んで歩くその二人を見つめてため息を吐いているのは、真彦の親友の藍羽光輝である。
「あいつは他人の目というものを気にしないのだろうか…?」
真彦は麻里と付き合っていることを隠そうと、麻里に学校では自分のことを『黒須君』と呼ばせている。しかし、あんなに仲良くしてたら意味が無い。既に大半の人間がその事実に気付き始め、真彦に恨みを持つ者も出始めているのである。その事実を、真彦は知らないのである。
「そのうちとんでもないことに巻き込まれるんじゃねぇか?まぁあいつの黒魔術でなんとかなるだろうけど…」
それはいらぬ心配だと、光輝は思っていた。しかしそれが本当の事になるとは、光輝はまだ知らない…。
「よぉ、真彦君?」
真彦と麻里が校門に差し掛かった時、嘲るような声が掛けられた。
「ん?誰だ?」
真彦がそちらを向くと、全身黒で統一された服を着た、二十歳くらいの男が校門の塀に寄り掛かっていた。
「久しぶりだなぁ、その娘は新しい彼女か?」
「なっ?!…何であんたがここにいんだよ?」
空想上の生物を現実に見たような、真彦はそんな表情をしていた。
「この人、真彦君の知り合い?」
「…麻里、悪いんだけど先に帰ってくれないかな?俺この人の相手しなきゃならないみたいだからさ…」
真彦は努めて笑顔でいようとしていた。しかしその内側の顔は驚きと焦りでひきつっていた。
「…うん、わかった」
そんなことを知ってか知らずか、麻里は素直に頷き、また明日ねと言って帰っていった。
「何だよ、いいのか?一人で帰らせちまって」
「…ここじゃ人目に付き過ぎる。移動しましょうか、智博さん…」
真彦がその黒服の男・智博を睨む目付きは、普段の真彦からは想像できない程鋭いものだった。
真彦達の住む町には川が流れている。学校から歩いて数分の距離にあるその川岸で、二人は対峙していた。
「…で、何であんたが今更ここに来たんだ?」
最初に口を開いたのは真彦だった。
「それはお前に会うために決まってるだろう」
「だから!何で俺の前に現れたかって聞いてんだよ!」
「まぁまぁ落ち着け」
声を荒げる真彦に対し、智博は平静を保っている。
「久しぶりの再会なんだ、もっと喜ぼうぜ?」
「喜ぶ?ふざけんなよ。悪いが俺はあんたに対して恨みしかないんでね」
「つれないなぁ…そんなんだから優子ちゃんにも嫌われちゃうんだよ」
「誰がそうさせたと思ってんだ?」
その場に漂う険悪な雰囲気がさらに増していく。
「確かに、昔はあんたを信頼してたよ、智博さん。裏切られたとわかるまでずっとな…」
「裏切ったとは人聞きの悪い…最初から『利用しようとしてた』だけさ」
「俺だけじゃない…優子まで利用たくせに…『力』欲しさに人殺しまでしたくせによ!」
「あれはちゃんとした『儀式』だ」
「人間の魂を生贄に捧げるなんて、狂った奴のすることだ!俺は…あんたの様にはならない!」
真彦はもはや叫んでいるという話し方だった。
「俺は他人を利用するマネは一切しない!もう…誰も傷つけないって決めたんだ!」
「フン、お前がそうでも俺は違う」
智博はきっぱりと言った。
「まぁお前には正面から言っても協力してくれなさそうだから、陰ながら利用させてもらうよ」
「陰からでもあんたには協力しねぇよ!」
「そうかい…じゃあまたな…真彦君?」
智博は薄笑いを浮かべながら真彦に背を向ける。
「近々俺の力が消えそうなんだ…その前にまた会うだろうよ」
「そん時には智博さん、あんたを潰すよ」
親指を地に向けて智博を挑発する真彦。
「…それが出来ればな」
智博はそのまま去っていった。
「……やれるさ。俺はあんたとは違うんだ。いろんな意味でな…」
智博に聞こえないくらいの小声で、真彦はそう呟いた。