黒魔術師の恋愛事情〜因縁-6
「ところでムーン、一つ聞いていいか?」
「何を?」
真彦はムーンを近づけ耳打ちした。
「…出来るか?」
「…それは高くつくよ?結構難しいもん」
ムーンは難しそうな顔になった。
「…報酬はチョコレートケーキ、しかも特別サイズの10号ホールだ。この場で丸ごとやるぞ?」
真彦がそう小声で言うと、ムーンの耳がピクンと反応した。
「出来るよな?」
「…モチ!」
言うと同時に、ムーンは智博の方へと猛スピードで飛んで行く。
「雑魚が…やれ、レッドカーニバル!」
人間の数倍の大きさを誇るレッドカーニバルが智博の前に立ち塞がる。
「…邪魔」
ムーンが一発殴った。本当にただそれだけだった。
「ぐぐぉ?!」
レッドカーニバルは殴り飛ばされ、智博の後ろの壁に激突した。
「…はぇ?」
智博の口からは随分とマヌケな声しか出なかった。たかがサッカーボールくらいの奴にレッドカーニバルが一掃されたという、目の前の事実を認めたくなかった。
「いっくぞーーー!!」
勢いを殺すこと無く、笑顔も絶やさず、ムーンは智博に突撃する。
「う、うわぁっ」
思わず智博は目をつぶり、腕で顔を覆った。
「………ん?」
思っていた衝撃が一向に来ないので、智博が目を開けると、さっきまでいた丸い奴はどこにもいない。ただ、さっきと同じ位置に真彦がいるだけだ。
「…今のは何だったんだ?」
智博がふと気を抜いた瞬間だった。
「コンプリィートォォッッ!!」
「な、何っ?!」
突如、消えたと思ったあの丸い物体…ムーンが『智博の腹』から飛び出してきたのだ。ハイテンションで叫びながら…。
「貴様…一体俺に何をした!」
「何って…『あんたを今後一切悪魔と何の契約もできないようにした』だけだよ?」
「何?!」
智博は自分が召喚した悪魔を見…たかった。先程ムーンに殴られたレッドカーニバルは、既にこの世界にはいなかった。
「智博、あんたにはそれが一番さ。もう犠牲者も出ないしな」
振り返った智博の目の前には真彦が近づいていた。
「俺はあんたとは違う…魂を消したりはしない。だが、俺の大事な人を…麻里を殺そうとした罪は重い」
真彦は智博の額に手をかざし、すぐに離した。そして背を向けてこう言った。
「もう俺達の前に姿見せるなよ?さもないととっても嫌な思いをするぜ、智博さん?」
それは一昨日、智博が真彦に最初に呼びかけた言い方と同じであった。
「さぁて、帰るとす…」
「チョコレートケーキは?」
真彦の視界いっぱいにムーンのドアップが広がった。
「うわっ!…あぁ、そうだったな。おーい、光輝ー!どっちがチョコケーキだ?」
光輝は中身を確認して、片方を高く上げた。
「よし、あっちは箱ごと持っていってくれていいぞ」
「わーい!」
ムーンはすっ、と光輝からチョコレートケーキの入った箱を掠め取り、ボンッという音と共に現れた煙に包まれ、煙と共に消えていった。