官能の城(2)-2
「あ、そうだ、ここはお城じゃない、やった!」
彼は思わず声を出して叫んでいました。
彼が今いるところはゆったりとした寝具の中ではなく、
暖かい干し草の中でした。
しかし、彼はそこで誰かの声を聞いたのです。
「うふふ、おはよう・・目が覚めたようね、
でも、ここは人が寝るところじゃないのよ、
ところであなた誰なの?」
リチャードは両目を開けてその声のする方に顔を向けました。
そこには自分と同じくらいの年齢の少女が、
にこにこしながら自分を見つめていました。
その声の主は、丸くふっくらとした顔の
愛らしい一人の少女だったのです。
「あ、ここはどこ?
僕はリチャ・・あ、いやルイスって言います、
お城・・いや・家を出てきたので、泊まるところが無く、
丁度ここにいい場所があったので、つい寝てしまって、
でも・・君の名前は何て言うの?」
「まあそうなの、
この小屋は私の家の持ち物だし・・わたしはマリアって言うの、
よろしくね、
でもルイス、お父さんやお母さん心配しているでしょう?」
「いや、大丈夫、僕が勝手に出てきたんだから」
「そう、まあ・・良いわ、人にはそれぞれ事情があるし、
それ以上は聞かないわ、
ところでルイス、お腹が空いたんじゃない?」
「うん、実はお腹がさっきからね」
リチャードはマリアという少女を見つめながら
照れくさそうに言いました。
「あはは、やっぱりね、
いいわ・・ではちょっと待って、持ってきて上げるわね」
その少女はリチャードを見つめ、
屈託のなく、微笑みながらその牛小屋を出ていきました。
リチャードはその少女を見つめながら、
(何てこの少女は可愛く素直なんだろう、こんな笑顔を見たのは初めて)
と心の中で思いました、
そして心から初めて穏やかな気持になっていたのです。
リチャードとそのマリアと言う少女との出会いが、
これからの彼の運命を左右することになるとは
リチャード自身もマリアも、その時には分かるはずもありませんでした。