投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

走馬灯
【その他 官能小説】

走馬灯の最初へ 走馬灯 1 走馬灯 3 走馬灯の最後へ

走馬灯-2

アクセラが調子いい。大抵はヤツを乗せることになっている。この前はシートに、見事な花火、スターマインをぶちまけやがった。たまの休日がとても切なかった。「すまん、覚えていない。」は、犯罪者と政治家のみに許されるはずだろうに。

行き付けはソアラ。小林の愛人の店だ。かおりでは飽きたらず…とふりかざしてはならないと思う。俺が悪いと…思う。ひいきめにみても。悪い…と思った。後悔はいけない、反省ならいい。何かを汲み取り次に活かす。常に過ぎたことは過去にしてきたから、終わりが見える恋が常になる。

一人で生まれ一人で死ぬ。誰かと死ぬなどあり得ない。そう思いながら生きていく。生きる目的とは…張り巡らした考えの糸はいつもここで絡まり、おざなりになる。それは大抵、外部からのシャットダウン、例えば今日で言えば、ソアラに到着だ。

「それじゃあお願いしますね。」ソアラのママはいつも笑顔だ。笑顔で見送る、は接客の基本。俺には敷居が高いし、値段も…高い。糊の貼ってあるような笑顔とだらしなく酩酊状態に陥った笑顔に挟まれると、いつも戦慄を覚える。

そして車は走り出した。出歯亀を愛人から元カノへ送る道を。峠を越え、明かりも絶え絶えの中核都市へ。せめてそのまま寝ていてくれれば…かおりと一言二言で済んだのに、それはついに叶わないようだ。豚イビキはやみ、話し始めた。「あのカーブが最後だから。」





「課長、一本飲んでおきますか?」さっきコンビニで買っておいたウコン茶を小林の前に差し出した。「いや、いいわ。それより、ちょっと停めてくれねーか?」気持ち悪いのか?あと少しだというのに。「あそこ曲がればすぐですから?」でも吐かれたら、前の土日のような気分に…背に腹は代えられない。早い所、おさらばしたいところだが、まあいい

車を停めると深刻そうにうつむいていた小林は、車の外に勢いよく飛び出した。愉快な音が聞こえてきたが、思い直す。不快だ。酒とゲロのミクスチャーは好みでない。やがて複雑な音がやんだのを見計らって、サイドシート方向の窓をあけると、いるはずの小林はいなかった。

「課長…?」ドラマのようにつぶやいた俺は、まるで三流の役者のようだった。 不思議なくらい機敏な動きで車を降りた。鼻先にしずくが垂れ落ちる。雨か。やれやれ最悪とはこのような状況を指すのだろう。簡単に使うべき言葉ではないのかもしれない。

車の反対側にまわると、そこには機嫌良さそうに横たわる課長の小林がいた。「課長!そんなところで寝ていたら風邪を…課長?」ゆすってもゆすっても、いくらゆすっても起きない。いくら肩を叩いても返事がない。さっきの最悪が生易しいぐらい。雨に打たれ少しずつ冷たくなっていく小林。二歩、後ずさり、車の窓に腰をぶつけ思わず同じ言葉を口にした。「課長…。」

口がよく回り、課長の座に上り詰めた小林。さして仕事が出来るわけではない。ただウケがいいだけの男の末路…



だったら良かった。「うーん。」そのまま死ねば良かったのに。「すまん、寝ちまったみたいだ。」そのまま死ねば良かったのに。「ん?どうした?」「そのまま…だと風邪をひきますよ。」サイドシートのドアを開ける。怪訝そうにこちらを見やると、そろそろと乗り出す。いつの間にか雨足も強くなっていた。

俺は風呂が好きだ。車にはいつも風呂セットを積んでいて、気晴らしのドライブでひとっ走り、帰りにひとっ風呂。せちがらい浮き世から離れるためにはもってこいだ。何故かその場所で出会う人達とは社交的に振る舞える。何も知らないからだ。


走馬灯の最初へ 走馬灯 1 走馬灯 3 走馬灯の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前