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走馬灯
【その他 官能小説】

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走馬灯-15

かおりはいい女だと思う。誰よりも。過去の俺はかおりになれた。俺はこれからかおりになる。過去も、現在も、未来も『変える』ために『変えない』努力をしたい。

それにしても、この高揚感はどうにかならないのか。気持ちが悪い。自分の腕に包まれている自分。幾度となく繰り返される口づけは、身体を熱くさせた。でも鏡とキスをするようなものだ。我ながら変な趣味だと思っている。

切り替えだ。俺はかおり、もとい私はかおり。せいぜい自分とのセックスを楽しませてもらおう。 田宮は容赦なく押し倒し、まさぐってくる。一糸まとわぬ、あられもない姿が外の光に照らされ、紅潮しているのが一目で分かる。舌や指先が全身を這い回り、いよいよ重点的になってきた。

室内にいやらしい音が響き渡る。そして自分の意志に反して喘ぐ喉、疼く心。艶かしいまでのかおりの裸体、田宮の顔が次第にぼやけていく。快楽に身を委ねることができるようになった。これは大きな進歩であり救いだ。思考回路もその動きを鈍らせる。また更なる快感を連れてくる。いっそ女はうらやましい。

ついに1つになる時が来た。前戯から挿入準備が30秒かかった時に、目ははっきりと覚めた。本当に自分とするのか。自分のものを自分のもので包むのか。マスターベーションの右手とは違う包み方で。「ちょっと待って。」思わず口走った。「怖い。」

驚いた。かおりが本当に俺に伝えてきた言葉だ。かおりになったのだ。というより過去の俺を自然になぞったのだ。こうなったらもうとことん再現するしかない。観客などいるわけないし、今の自分を非難できる者はいない。はまってみようと思った。

シーツを両手でギュッと握りしめ目を固くつむった。無情にもシーツはわだかまる。意味をなさなかった。田宮が背中に左手を回し、俺の髪を撫でた。それだけで身はよじれて熱くなってしまう。病気だ…もう。軽いフレンチキス後に、その時は来た。

背中は反り上がり、シーツとの間に空間ができた。下半身から心地よい爆風が駆け上り、脳天へ抜けていく。 感極まった、とても気持ち良さそうなかおりの声を耳元で聞く。荒々しい息遣いと、切迫した声をステレオで聞くのはもう目と鼻の先だった。

潮の干満のような快楽の波が来ると同時に、海辺のさざ波が小刻みに寄せては返す。大外からは絶頂メーターのゲージが少しずつたまっていく。かなりお得だ。腰のひとふり、三役。力強く抱かれるもよし、優しく触られながらも、またよし。つくづく女はうらやましい。

上になったり、横になったり、下になったり、前になったり、持ち上げられたり。くんずほぐれつ。全てが全て、素晴らしい体験だった。良かった。体勢が変わる度にゲージは地味に地道に左から右へ傾いていく。一度として下がることはない。実はこれが振り切れたらどうなるのかという考えはどうでも良くなっていた。

幸せだった。ネバーランドに飛び立つ前に田宮に言わなければならないことがある。それだけは絶対に。今となっては変な感謝もしているから、簡単に言える気がしていた。スピードが上がってきた腰の動きには負けられない。射精も近いだろう。俺も、だ。過去のまま変わりなければ同時に絶頂を迎える。

左手と右手を田宮の首に回した。田宮の顔は変わらない。喘ぎ声が出るのをなんとかこらえながら、「す…き…。」言えた。言ってやった。そして爆発音と共に白いフラッシュが何回もたかれた。気分は芸能人の婚約会見だった。

荒い息遣い、恍惚とした表情を浮かべている田宮を胸元に抱きしめていたが、長くは続かない。飛ぶ瞬間がやって来た。過去を変えないことについては多分、成功だ。誤算は、やみつきになってしまいそうなセックスに人生観が変わりそうなことだと思う。


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