Dear.The last smile-6
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翌日。
よく晴れた、とても天気の良い日の事。
朝早くに電話が鳴った。
大学病院からの電話だった。
志穂の容態に異変があったらしい。
すぐに俺と母ちゃんは病院へと向かった。
治療室前には既に志穂の母ちゃんと妹が待機していた。
ガラス越しに、志穂と数人の医師、看護師が室内に見える。
1人の医師が外に出てきて、俺達を中へ呼んだ。
いつも室内に入る時はマスクと専用のスリッパを履いていたのに、今日はそのまま中へと通された。
志穂のサイドに膝まづき、黙って志穂を見つめる。
いつも薄らと開かれていた志穂の瞳。
その瞳はいつも虚ろで、いつでも何処か遠くを見つめてはたまに閉じる、を繰り返していた。
そんな志穂の瞳が、今日は俺をとらえた。
微かに志穂の手が動く。
すかさずその手を握れば、俺の手を握り返そうと、志穂の指はゆっくりゆっくり内側へと曲がった。
志穂の名を呼ぶ。
今まで何回この名前を呼んだだろう。
愛しくて愛しくてたまらない、この名前を。
志穂の瞳から線が伝った。
真っ赤に色付いた一筋の線。
俺をとらえていた瞳が弧を描く。
口元も柔らかく吊り上がった。
志穂。
鳴り響いた機械音。
脱力してベッドに落下した志穂の手。
後ろで聞こえる嗚咽混じりの泣き声。
閉じられた瞳。
枕を濡らした赤い跡。
木ノ下志穂、旧姓・西山志穂。
苦しみは、地獄にも勝るものだっただろう。
その苦しみを耐え続けて1ヶ月。
彼女は、血の涙を流しながら、静かに天へと召されていった。