Dear.Proposal-1
「…え…え?何、したって?」
「…だから…、妊娠、したみたい…」
「…ゴム、しなかったの?」
「したよ、ちゃんと…」
「…まぁ、ゴムだけじゃ100%とは言いきれないからね…」
「……」
「…それは、賢ちゃんの子…だよね?」
「…うん」
「賢ちゃんには言ったの?」
「…ううん」
「あたしに言う前に賢ちゃんに言わなきゃ駄目じゃん」
「…だって…、もし…嫌な顔されたら…」
「そんな事言っても仕方ないでしょ?医者は?医者には行ったの?」
「…まだ」
「…とりあえず賢ちゃんに言お。話はそれからだよ」
「…うん」
「ホォラッ!そんな顔しないの!!おめでたい事なんだから明るい顔する!!」
「…うん…」
****
辺りの木の葉が赤く色付く季節。
暑い暑い夏が終わり、自然が寒い寒い冬へと移り変わる準備に余念がない秋。
「今年もあっという間に終わったよな、夏…」
「あぁ…」
大学の図書室。
結構な広さの室内には本棚がドミノのように並べられ、その中には所狭しと書物がぎっしり詰め込まれている。
「大学最後の夏って、なんか寂しいな…」
「…そうだな」
その図書室にある読書・勉強用の長い机にスライムのようにうなだれながら、晃司が深い溜め息を吐き出した。
「フェスもなんか、いつもより感慨深かったな…」
「…は?」
「なんかホラ、いつもより飛べなかった気がする…」
「アホか」
いきなりのおかしなカミングアウトに呆れながらも、夏のあの興奮と熱気を頭の中に思い出す。
去年から晃司と2人で行っていたフェスに志穂が加わり、興奮度も倍増していた。
目の前には好きなアーティスト、隣には好きな子。もうテンションは常にMAX越えしていた事を覚えている。
「今年はお前、いつも以上に飛べてたじゃねーか。お前と他人から足踏まれ続けて靴ひもボロボロになったぞ」
紐靴はフェスに履いていかないと数年前から決めていたのに、今年はどうしてか紐靴で臨んでしまった。そのせいで靴ひもはみるも無残な姿になってしまった訳で。紐、すまない。
「あ、そうだったっけ?そりゃ悪ぃ事したな」
スライス状態の晃司が、顔だけこちらを向いてへへっと笑う。