Dear.Proposal-7
「…それでだけど…、名前、どうする?」
「名前?」
あぁそうか。名前なんて考えていなかった。
「名前かぁ…」
「私ね、『幸村』がいいな」
「…え?」
…幸村ねぇ…。
「…まさか『真田』が元じゃないよな?」
「ご名答!!さっすが賢悟!わかってる!」
あまり嬉しくない。
「どうして戦国武将なんだよ…」
「だって、強くなって欲しいじゃない?子供には」
なんて安易な…。まぁ、志穂らしいけど。
「それだったら、幸村より『元親』の方が俺はいい」
「モトチカぁ?長宗我部いっちゃう?もっとメジャーな所にしようよー」
メジャーだメジャーでないはどこで決まるのだろうか。街頭アンケートでも取ったのだろうか。
「…何でだよ、充分メジャーだろ。俺の子供には、小さい時は志穂みたいに可愛く、大きくなったら俺みたいに強く逞しくなって欲しい!って願いを込めてんだよ」
「…なるほど。それで『元親』…」
長宗我部元親とは、土佐の戦国大名で、幼い頃は長身で色白な事から『姫若子』と呼ばれていたが、後に四国を統一するまでに成長した武将である。
俺の好きな戦国武将だ。
「よし、じゃあ『元親』で決定な!!」
「ちょっと!真面目に考えてよね!!」
先に言いだしたのは志穂の方なのに…と、若干の理不尽さを感じたが、言葉には出さなかった。口では勝てないとわかっているから。
「じゃあ、明日俺休みだし、姓名判断の本でも買って2人で考えるか」
「いいね!賛成!」
だいぶ大きくなったお腹を擦りながら、志穂は明るい声でそう言った。
「よーし!そうと決まれば、日記書いて早く寝よーっと」
「日記なんてまだ書いてんのか?よく続くなぁ」
「やってみると面白いんだよ?中学からやってるから、もう習慣だね」
志穂は毎日寝る前に日記を書いている。昔の日記もきちんととってあり、一度俺が見せてくれと頼んだら、「私がボケたら見てもいいよ」と言われてしまった。
「俺ももう寝るか。誰かさんが日記書いてるうちに」
「ちょっと、私の事なんだと思ってるの?!」
笑い声の絶えない家。
ずっと続くと思っていた幸せな暮らし。
子供が産まれたら皆で旅行とかに行って。
そうだ、子供にはギターを習わせよう。子供のうちからやっておけば、将来絶対すごいギタリストになるに違いない。
そんな事を考えながら眠りについた。
この時の俺はまだ知らない。
明日に起こる事件、そして…。
よもや、神というものを恨む日がこようとは、この時の俺は夢にも思っていなかった。