小さなキセキ-3
「麻衣ちゃんは今は?」
「私?私は相変わらずだよ。」
私は、高卒で地元の企業に就職をし、事務の仕事をしている。今年で7年目だ。
私の同期の子たちはだんだんと寿退社や、さまざまな理由で辞めてしまい、もうほとんど残ってはいない。
職種上、私の職場は圧倒的に男性が多い。思えば私は、その中でだいぶ逞しくなったと思う。
そんな日々を過ごしているから、女性らしい所作を忘れてしまっているのかもしれない。
「そっかぁ。でも、すごいなぁ。」
「え?何が?」
「麻衣ちゃんの会社、おっきいとこじゃん。地元で安定したところで働いて・・・こうして話してると、なんかすっかり社会人って感じなんだもん。」
「そ、そんなことないよ〜。」
思わぬ言葉に私は、少し慌ててしまい、苦笑いしかできなかった。
私は愛菜のほうがすごいと思う。
だって、昔からの夢をずっと目標にして、自分の力でちゃんと叶えてしまったのだから。
私は結局、高校で就職活動を始めるころになっても、目標らしいものを見つけることができなかった。
普通に会社に勤めて、何年かしたら結婚できればいいや。
正直、今の会社の試験を受ける時もそんなふうにぼんやりとした将来像しか持っていなかった。
「地元ってやっぱりいいよね。久しぶりに帰ってきたけど、すごく落ち着くもん。」
愛菜は前を向いたまま、そう言ってにっこり笑った。
参道の石畳に愛菜の下駄がカランコロンと響く。
門をくぐって境内の中に入ると、祭りの喧騒も遠のき、虫の声が涼しげに響いていた。
お寺の本堂は奥まったところにあり、少し歩かなくてはならないのだが、私は、この参道を歩きながら空を見上げるのが昔から好きだった。
私と愛菜が通った幼稚園はここからすぐ近くにあり、昔からここは私たちの遊び場だった。
お寺のまわりは杉林に囲まれているので、夏の日中でも涼しい。
杉の木立は鬱蒼と生い茂り、空を見上げると、まるでぽっかりと切り取られたように見え、耳をすませば聞こえてくるのは虫の声だけ。
そんな雰囲気が、昔から好きなのだ。
「愛菜ちゃん、私たち小さい頃にさぁ、よくここでかくれんぼしたり、探検したりしたよね。」
ここを歩くのもいつぶりだったろうか。私は懐かしくなり、ぽつりと呟いた。
この参道のまわりには、一面にあじさいが植えられていて、花の季節にはちょっとした観光スポットになるのだが、幼いころの私たちにとっては、自分の背丈よりも大きな木々の間にすっぽりと隠れてしまうので、天然の緑の迷路のようだった。