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Dear.
【悲恋 恋愛小説】

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Dear.Like to love-5

志穂。

触れているだけなのに、たまらなく愛しさが募る。
俺とは違う、『志穂』という生き物。
何故こんなに愛しいのか。
何故こんな気持ちになるのか。
俺のこれからの人生全部を費やしても、この答えはきっと出てこないだろう。
しかし、答えがあろうとなかろうと、志穂に対するこの気持ちは真実であり、全てである。
この気持ちに嘘偽りなどありはしない。
そう、全て。

志穂。

頬から手を奥へと滑らせる。
人差し指にピアスが当たった。
やや自分の身を屈ませて、志穂の顔に自分の顔を近付ける。
自分達の周りの空気がスローモーションになってしまったような感覚だった。
志穂への道程が何だかやけに遠く、ゆっくり、ゆっくり近付いているかのようだった。
至近距離で視線がぶつかる。
志穂の瞳には、少しの困惑の色が浮かんでいた。
しかし、今更止めることは出来ない。
視線はずっと外れなかった。俺は勿論外そうなんて考えなかったのだが、志穂もまた、困惑の瞳を外す事はしなかった。
俺の鼻が志穂の鼻先を掠めた。少しだけ首を傾け、ゆっくりと瞳を閉じる。
瞬間、唇が重なった。
柔らかい感触を唇に感じる。リップクリームかグロスか何かが塗られているのであろう、唾液とは違う湿った何かが、志穂の唇から俺のへと付着した。
瞳を開いて唇を離す。
重ねていた時間はほんの2秒程。
心臓がものすごい勢いで揺れている。
ライブのバスドラムのウーハー音みたいに、全身に響くような力強い鼓動。
志穂を見れば、困惑の瞳は変わらずそこにあった。いつの間にか、両手は胸の前で握られている。
「…ごめん、いきなり」
自分の欲望のまま、志穂の気持ちなど関係なく唇を重ねた。
とても自己中心的で身勝手な行為だとは、自分でもわかっている。
わかっているけれども、止められなかった。
「…ごめん…」
本当に自分勝手だ、俺は。
志穂に嫌われるかもしれない。
漫画みたいに『友達だと思ってたのに!!身体目当てだったのね!!』とか言われても仕方がない。
でも。
「…でも、好きなんだ」
そう呟いて瞳をふせる。
初めての告白は、自分でもわかるくらい声が震えた。
志穂に触れているのもおこがましい気がして、頬に触れていた手をするりと下ろす。
その下ろした手も小刻みに震えた。
強すぎる鼓動のせいで、全身に震えが回っているのだろうか。なんて現実逃避した考えが脳裏に浮かんだ。
震えの原因もわかっている。
怖いのだ。志穂が。
志穂から発せられるであろう言葉が、怖くて怖くてたまらない。
いきなりあんな事をしておいて言えた義理でもないが、願わずにはいられない。

どうか、嫌いにはならないで。

ペシッ。
俺の左頬に微かな痛み。
ふせていた瞳を開ければ、怒ったような志穂の顔が俺の2つのレンズに映った。
手の震えが大きくなる。
聞きたくない。志穂の言葉を。
開けた瞳をまたギュッと瞑る。


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