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ふつう
【青春 恋愛小説】

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ふつう-第三話-6

「そう。女の人なんだけど、人生の師匠みたいな。でさ、死んだんだよ、その人。癌で」

「…えっ?」

「その人はさ、今以上にガキだった俺に凄い良くしてくれてさ。今バイトしてるショップもその人に紹介してもらって」

「そうだったんだ…」

「でさ、死ぬ前の最後の客として入れてくれたわけ。勿論俺の歳が足りてないってのもお互い分かってたんだけど。でもね、死んじゃうから。残したかったんだよね」

「うん…」

「あの漢字…“吹毛常磨”と“百尺竿頭進一歩”にはそれぞれ意味があって。で、周りの蔦は、絡み付いて離れない柵とか煩悩を表してる。その柵の中でもその気持ちを忘れないようにね。背中の蓮の花は、その師匠の名前が“蓮”だから。鳩尾の合掌は“堅実心合掌”っていう合掌の形で、“素直で偽りの無い祈りの心”を表してる。全部意味があるんだよ」

「そうなんだ…。痛くなかった?」

「勿論、針が刺さるわけだから、痛いけど。でも死ぬことに比べれば、ね」

「すごい大切な人だったんだね」

「うん。俺さ、特に小学生ん時に頻繁に引っ越ししててさ、友達が出来たと思ったら引っ越し、その繰り返しだったんだよ。だから特定の“親友”みたいなやつはいなかったし、それで自分独りで出来る遊びを考えたり、何かを読んだり音楽を聴いたり、自分の内側に向かって行く傾向が強かったんだよな。でもだからこそ一期一会の出会いに対して思いも強くなったんだろうけど」

「…うん」

「でさ、中一になる時に初めて親友みたいなのが何人か出来て、その彫り師の人はその時の友達のかなり上の先輩で。その人はそれまで内向的だった俺に色んな事を教えてくれて。服だったり、音楽だったり、物の考え方とかそれ以外の遊びとか。あの人が俺を外に向かわせてくれたんだよね」

「…うん」

「それで、その人の後輩がやってるってショップが今のバイト先で、そこの先輩方にも可愛がってもらってさ。それ以来殆ど年上としか遊んでねーんだよな。バイト先の先輩とか、その先輩方の友達の他のショップの人とか。皆さ、俺のこと対等に受け入れてくれてて。だからまたこの前引っ越しても尚、あそこでバイト続けてるわけ」

「そうだったんだ」

「ちなみにこの背中の蓮は、ショップの先輩方も場所はバラバラだけど全員入れてるんだよ。皆その師匠の連れだから。で、俺は一番最後に入れてもらったんさ」

「…家族みたい」

「そうだね。血縁じゃない心縁の家族であり、兄弟だね」



なんかそういうの…羨ましいな。
私にはそんな繋がりの人、いる?



「いきなりだけどさ、パツ子の名前の“救”って、凄く良い名前だよね」



えっ?


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