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やわらかい光の中で
【大人 恋愛小説】

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やわらかい光の中で-95


本島のホテルを後にした千鶴は、照り返す太陽に耐えながら、当てもなく那覇の国際通りを歩いていた。
そこで何の気なしに入ったカフェのオーナーに勧められ、彼女は阿嘉島へ行く事にした。

阿嘉島へ向け、大荒れの大海原をただ突き進む船の甲板で、照りつける太陽の日差しに耐えながら、彼女は自分の中の真実と戦っていたのかもしれない。
その眼差しは、進行方向から逸らされることなく、じっと何かを睨み続けていた。


荒れた海と格闘する事2時間、独り旅の千鶴を乗せた船は阿嘉島に着いた。
宿に荷物を置くと、宿主が近くの浜辺の夕日が美しいと教えてくれたので、彼女は夕食までの時間をそこで潰す事にした。

集落の小さな道を歩いていると、小学生の小さな男の子が向こうから歩いてきた。
男の子は彼女の近くに来ると、不振そうに彼女を見上げ、壁の方に後ずさりながらじっと彼女を見た。
千鶴は訝しく思いながら見て見ぬふりをするか、笑顔を作ってみせるか迷っていたが、なんとなく、その男の子に笑いかけてみた。すると、男の子は笑いもせず、彼女を見上げたまま、小さく「こんにちは」と呟いて走り去って行った。

彼が走り去ったブロック塀には「みんなに元気良く挨拶をしましょう」と大きく看板に書かれていた。

彼女は小さな男の子の後姿を見えなくなるまでぼんやりと眺めた。

青い空が眩しかった。アスファルトが白く反射して更にその眩しさを増徴させていた。
少年は小さな直線の道を逃げるように走り去っていった。彼女は、その小さな背中にどことなくたくましさを覚えていた。

ビーチへの案内看板にしたがって人独りがやっと通れるような、急な勾配の細い道を上がっていくと、目下に美しい白い砂浜が見えた。そのまま下っていくと、大きなヤドカリが椰子の木に素早く隠れる姿が目に留まった。ヤドカリは今まで見た事がない程大きく、一瞬、背筋に冷たい汗が流れた。

海は環礁に囲まれどこまでも浅く、彼女は沈みかけている太陽に向って石化した珊瑚の上を歩いた。

珊瑚の中には小さなウニとナマコが黒い点をいくつも作っていた。濃い青と水色の綺麗な稚魚も泳いでいた。

太陽が半分海に沈みかけた頃、辺りはオレンジ色の激しい光に包まれた。
海は白く輝き、白い砂浜は光を吸収しているように明るく見えた。浜辺を囲む椰子の木の森は暗さを増し、岩陰に隠れたヤドカリは自分達の出番を待っていた。


彼女は踝(クルブシ)辺りで穏やかに揺れる波を感じながら、じっとオレンジ色の太陽を見詰め、そこに先程の少年の不安気な眼差しを見ていた。




独りの女性宿泊客は珍しかったらしく、宿主は千鶴の事を気にかけてくれていた。宿泊客が少なかったことあるが、独りで夕食のテーブルについている彼女に積極的に話しかけてくれた。

「今の時期じゃ、海も駄目だしな、ここには遊ぶ所もねぇし…でもあすこの港から見える朝日は天下一品だよ。明日、早く起きれるんだったら、見てくるといいさぁ。いやぁぁぁ感動するよ。ここ来た人は、みんなそう言うもんさぁ。」

その言葉に彼女は笑顔で頷き、特にしたい事もなかったので、日の出の時間を聞いてその朝日を見に行く事にした。


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