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やわらかい光の中で
【大人 恋愛小説】

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やわらかい光の中で-94

2年前の独り旅―。
以前、憧れていた高級ホテルの1室で、彼女は3年間封印していた真実を初めて認めた。いつもどこかで強く意識していた、自分の奥底に眠る汚れた心を初めて正確な言葉にしたのだ。それらを言葉にすると、醜い自分が露(アラワ)になり、浅ましい自分と向き合わなければいけなくなる。だから、彼女はずっと見て見ぬふりをしてきたのだ。

いつも、アパート前の公園に集う主婦を見る度に直樹の事を思い出していた。直樹と一緒に自ら捨てた世界がそこにあるように感じていたからだ。
10年付き合った直樹への愛情は、重ねた時の中で気付かぬうちに、お互い、歪みが生じていた。彼女は、その歪みを彼と向き合い立て直す道を選ばず、慎治という新境地を求めた。彼女は独りで直樹と別れる事ができず、慎治を利用したのだ。

しかし、それは自己の愚かさの上塗りをしただけだった。

千鶴は慎治との付き合いに行き詰まりを感じていた。付き合い始めて3年という月日が過ぎていた。

彼女は凛とした慎治の生き方が好きだった。
自分のペースを守りながら周りとの調和を大切にする事ができ、詰めが甘く、軽率なところもあったが、持ち前の明るさで全てを乗り切る事ができる彼が羨ましかった。自分に厳しく、努力家で、誰に対しても誠実な男だった。何かを決めたら、それに向って突っ走る瞬発力があり、臨機応変に対応できる判断力のある人だった。彼の辛抱強く物事に取り組む忍耐力と、あっさりあきらめる潔さに彼女は憧れていた。

2年前、慎治が婚約を破棄した千鶴に責任を感じ、その責任感が彼を苦しめている事に、彼女も薄々気が付いていた。それでもその上で、彼のその責任感が、自分の人生を変えてくれれば良いと、心の底から望んでもいた。

彼女は、慎治の純粋な気持ちとその性格に甘え、ただ、彼に縋っているだけだったのだ。

慎治との3年間、周りに忌まわしい真実を悟られないように必死だった。慎治との愛が、真実の愛であると自分や周りに思い込ませるのに必死だったのだ。

彼女の両親は、親同士の挨拶も済ませ、式場も結婚の日取りも決めていた相手との婚約を破棄した娘を、なかなか認めようとはしなかった。容易に認める事ができなかったのだろう。それは親として当然の仕打ちだったのだとも思う。そんな話はテレビの中のドラマの出来事で、現実にそう起り得る事ではない。
親としては、自分の娘が婚約者やそのご両親を傷つけ、周りの友人にも迷惑をかけた事を簡単に許す事ができなかったのだ。それは、至極当然の事だ。

それでも慎治と真面目に交際している自分達の娘を見て、両親も少しずつ娘を認めてきていた。3年という時間が解決した部分も少なからずあったのかもしれない。直樹と別れてからの3年間、両親は自分達の娘の犯した罪を彼らなりに悔い改め、苦しんでいた。その両親の心の変動を誰よりも敏感に察知していたのは、他でもない千鶴自身だったのだ。

慎治と簡単に別れるわけにはいかなかった。

慎治と結婚したかった。
慎治と添い遂げる事が、犯した罪への償いだと信じていたのだ。慎治と結婚すれば、両親や直樹に自分を認めてもらえるような気がしていたのだ。

でもそれは慎治には全く関係のない、身勝手な事情だという事に彼女も気が付いていた。

彼女は慎治の事が好きだった。
しかし、その愛情は至る所で屈折し、複雑に絡み合いながら向けられているものでもあったのだ。

直樹と別れ、慎治と付き合って3年、その2人の関係は、既に、始まった時から行き詰っていたのだ。


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