赤ずきんちゃむ、おほかみの食糧につき-3
2 おんぼろワゴンと林の中
バスケットの届け先はふたりの住む島からは二つ離れた島だった。
オトギの国の中では比較的大きく、金持ちの多く住む島である。
島と島を繋ぐ橋へ向かうべく、ジンロは傍らにチャムを乗せ、おんぼろワゴンを走らせていた。
ワゴンが揺れるのは、これがおんぼろだというだけでなく、整備されていない林の中を通っているからだ。いつも使っていた橋が増水で渡れないため、少し離れた橋を渡ることになるとチャムが言うと、ジンロはそれなら近道があると言ったのである。
予想もしなかった酷い揺れにチャムは辟易していたが、木漏れ日の中を走るのはそう気分が悪いことでもない。錆ついて開かないワゴンの窓を開け、走りながら風を感じることができたなら、なおいいのにと思う。
ワゴンを走らせながら、ふとジンロが口を開いた。
「珍しいな。運ぶもん、バスケットひとつだけって」
「ね、不思議だけど」
膝に乗せたバスケットを見やり、チャムも言う。
「売り歩き用に何か積んでいれば、帰りにピクニックできたのにね」
彼女は外の景色に視線を移した。
雨上がりで草むらは濡れているようだったが、昼過ぎには乾いているだろう。
「向こうでサンドイッチでも買ってピクニックする? これを届けたら仕事は終わりだし」久々の晴れだからだろうか。チャムは楽しげに言う。「でも向こうだと物価が高いかなぁ。やっぱり一旦戻って――」
そこまで言って、チャムはジンロがだんまりなことに気がついた。
首を傾げながら、前を見つめてハンドルを握るジンロを見やる。
「……チャム」
「?」
「何つーか、その」
「うん」
「ワケ分かんねーんだけど」
「うん」
「何か、ビンビンなんですけど」
「うん……って、はあ!?」
森の中でジンロは急ブレーキを踏む。
思わず前につんのめりそうになり、チャムはもう一度声を上げる。
「な、な、何……」
赤ずきんを直しながらチャムがジンロを見やると、彼はエンジンを切っていた。その息は荒い。
まさか。
(まさかまさかまさか)
おそるおそるチャムはジンロの股間に視線をやる。そこは、既にテントを張っていた。
(ちょっと、待ってよぉ!)
いくら万年発情期の彼だとはいえ、こんな仕事の、しかも運転している最中にものを勃たせているなど異常だ。おかしい。しかし、チャムは冷静にそんなことを考えるより先に、明らかに発情したジンロを――彼の股間を意識してしまうのだった。
「ジ、ジンロ?」
「我慢できねー、ヤるぞ」
そう言って上着を脱ぎ、助手席のチャムの肩に手をかける。
「ちょっ」
だらしなく出した長い舌が、チャムの耳を這う。
荒い息が耳朶をくすぐった。
「んっ」
身を捩るチャムを抱き寄せ、ジンロはその大きな手のひらで彼女の胸を鷲掴む。
「やー! し、仕事中だってば! そ、それに昨日だって今朝だって、あんなに……」
「だって収まりつかねーんじゃ、仕事だってできねーだろが」
不服そうに言い、ジンロは俯くチャムの顎を掴んで顔を上げさせる。
むっとした表情で、チャムはジンロを睨みつけていた。
「………」
軽くため息をつきジンロは肩を竦めると、おもむろにベルトを外し出す。
それからいきり立った己のものをチャムに握らせた。