プラトニックラブ3-1
浅い眠りの中で玄関のドアが開く音が聞こえた。
足音はおそらく二人。
ボソボソと話す声が聞こえる。
うっすらと目を開け時計を見た。
もうすぐ始まる―
俺は起き上がり部屋を出た。
廊下には、声の主のものであろう香りが充満していた。
隣の部屋から下品な声が聞こえ始める。
鼻も耳も塞いでしまいたい衝動にかられながら俺は足早に玄関へと向かった。
玄関には赤いヒールの靴が落ちていた。
靴のラインを見る限り、太った者がはいていることがわかる。
俺はその靴を蹴飛ばし、玄関を出た。
外に出て思いきり空気を吸った。
静かに息を吐きながら俺は目を閉じた。
拳を握りしめ俺は吐き捨てるように言った。
「最低だ」
その言葉がドアの向こうにいる者なのか、自分に向けたものなのかは解らなかった。
夜風に少しあたろうと思い俺は歩き出した。
マンションの入口を出たときに一台の車が目の前に止まった。
車の横を通りかかったとき、男女が車中でキスをしているのが見えた。
通りすぎたときに後ろで車のドアが開く音がした。
「今度から送らなくていいわ。奥さんにバレるわよ」
後ろから女の声が聞こえる。
凛としていてハッキリとした言い方だ。
「わかったよ。じゃあ、また来週」
男の声が聞こえ、車が発進する音がした。
俺は足を止め、不意に後ろを振り返った。
一人の女が立っている。
夜風に吹かれながら柔らかいウェーブを描いた女の髪が揺れていた。
あの時、車がいったあともその場に立っていた彼女を見て美しいと思ったことが今でも間違えだったと思っている。
本当は振り返らない方が良かったんだ。