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缶コーヒー
【青春 恋愛小説】

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缶コーヒー-5

 お向かいのベンチに高校生が座ってる。うちの大学は付属高校・中学校がついているから高校生がいることはたまにあるけど、こんな時間になぜいるのだろうか。今の時間、高校は五時間目あたりなはずだ。T高の制服着たままここに座っていたらサボってるのバレバレではないか。まぁ、私には関係ないのだけれど。
 そんなことを考えながらもう一回よく彼のほうを観察してみた。とても整った顔をしている。整ったって言うよりかは美しい顔・・・。そこまで考えて私はハッと気づいた。昨日の泥棒だ。あの財布を盗んだ。あんまり驚いてジンジャーエールでむせてしまった。
「ゴホッ。ゴホッ。」
ニヤリとこちらを見た泥棒高校生。
いきなり、隣りに来てベンチに腰掛け、話し掛けてきた。
「なに動揺してんだよ。あんたって思ったこととかすぐ顔に出るんだね。思いっきし顔に出てたよ。ゲッ。ヤバイもん見たってさ。」
かなり動揺した。でも泥棒高校生に言われっぱなしは嫌だったから返事をした。
なるべく冷静に冷静に。
「だって普通驚くでしょ。ねぇ、あなたT高でしょ。そんなにお金に困ってるの?」
「金。金ねぇ。別にお金が欲しくってやっているわけじゃないんだな。」
「じゃあ、なんで。なんであんなことをしたの?」
「ちゃんと財布とかはいつも学生課の人に返してるんだよ。偉くない?やってる理由はスリリングあって楽しいから。」
「全然偉くないし。盗まれた人の気持ちとか考えたことあるの?ねぇ、いつもって何回もやってるの?」
「だって毎日つまんねえし。でもいつもやってたらさすがにバレるでしょう。半年に一度くらいだよ。」
「もうやめなよ。」
「そうだな。誰かに見つかったらやめようと思ってたし。もうやんねぇーよ。多分。」
「多分?まぁいいや。それでなんで、私が見てたのに盗みやったの?」
「なんか、あんただったら人に言わなさそうだなって直感で思ったから。なんかさ、あんた、うちのおばさんにそっくりなんだよね。関係ないけどさ。うちのおばちゃんいつもへいこらして俺の機嫌ばっかみてさ気味悪いんだよな。」
「そんなの私の知ったこっちゃないわよ。っていうか自分のおばさんと私が似てるってなんか失礼じゃない?老けてるってこと。」
「違うよ。雰囲気とかがさ。あっ、でも顔も似てる。あの人を若くさせた感じ。」
ケラケラ笑う泥棒くん。見知らぬ人に、しかも泥棒にからかわれたくない。腹が立って言い返す。
「あのさ、余計なおせっかいかもしれないけど、家族のこと気味悪いとか言うのはよしなよ。この世の中には、嫌なおばさんすらいない、家族のいない人がいるんだからさ。血繋がってる人を大切にしなよ。」
「言う事、ババくせぇー。」
「悪かったわね。」
「つーか、血繋がってないし。家族だと思ったこともないね。」
「・・・血が繋がってないおばさんて、何よ。近所の人?」
「違うよ。新しくきた母親のことだよ。」
一瞬黙り込んだ私。
次の瞬間、彼は私の飲みかけのジンジャーエールを取り上げて一口飲んでゴミ箱に投げ捨てた。きちんとゴミ箱に入った。
「ちょっと、人のジンジャーエール・・・。」
「何で知らない人に、こんな身内話してんだろ、俺。あぁ、イライラする。」
「こっちが聞きたいわよ。あなたが先に話し始めたんでしょ。逆切れしないでよ。それよりちょっと、私のジンジャーエール飲みかけ。捨てないでよ。」

 そこまで言ったら泥棒は立ち上がった。帰るのだと私は思った。しかし数歩、歩いてからふいに振り返り、
「行くよ。」
と言った。
「どこまでよ?」
「ジンジャーエール買いに。」
「もういいわよ別に。」
「なんで?この後授業?」
「授業はないけど・・・。」
「じゃあ決まりね。」
そう言われて私はなんとなく彼についていった。


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