かつて「茅野ちゃん」かく語りき-7
でも、決めてしまったらスパッと実行したくなる性格の茅野久美子である。まだ夕方だってのに、もう由良に話したくて仕方がない。
嫌われるかもしれないという不安はあるけど、そうなったらそうなったまでだ。由良とは縁が無かったんだと諦めるしかない。
帰り道、ポチポチ携帯を打った。
『Title お仕事おつかれさま！
今日は会えますか？よかったら、晩ご飯を食べに来てください！』
送信した瞬間、覚悟ができた。よし、頑張るぞ。
買い物を済ませた頃に携帯が鳴った。
『Title ありがとう
やったー！もうすぐ行くよ。おみやげあるから、お楽しみに』
たった一通のメールでも、こんなに幸せになれるなんて、ホントに恋愛ってすごい。
ふにゃりと崩れちゃう顔を取り繕いながら、歩きだした。
今夜はオムライスにすることにした。チキンライスを炊飯器にお任せして、一息ついたところでドアベルが鳴った。
「俺ー」
「おつかれさま」
今日の由良はあのペンギンみたいな恰好じゃなかったけど、いつものさらさら黒髪を無造作に跳ねさせていた。
「わっ。どしたんですか、その髪」
「いや、お客さんに美容師がいてさ。犯されたの」
そう言ってわしゃわしゃと髪をかきむしる。いつも通りの髪に戻そうとしているみたいだけど、スプレーでスタイリングされたのかなかなか頑固だった。
「そのままでいいじゃないですか。カッコいい」
「……そう？」
素直に出た言葉に自分でも照れてしまって、あたしは返事をせずにご飯の支度を始めた。
あとは卵でまくだけとはいえ、なかなか難しいんよね。むう。
「あ。オムライス」
台所をひょいと覗いた由良が嬉しそうに呟いた。卵をかき混ぜながら、あたしも笑顔になる。
「オムライス、好きですか？」
「もちろん。でも、茅野ちゃんが作るのは何でも好き」
「へぇっ？」
つい卵を落とすとこだったじゃんか！……もしかして酔いよんか、由良。
「最後くらい、俺にやらして」
そのままボウルを奪われ、あたしは自分をごまかすものを取られてしまった。
「うまかったー。ありがと」
「いえいえ、お粗末さまです」
由良のいれてくれたコーヒーと過ごすひととき。すんごく幸せ。
「あ！みやげ」
彼が冷蔵庫から紙袋を取り出した。
「コレ、俺が作った」
と、自慢げにあたしに渡すので、なんだか弟みたいで吹き出してしまった。
「何じゃろ?？」
わざと開けるのをしぶってみせると、由良はうずうずしている。楽し?！
しばらく遊んでから紙袋の中を覗くと、小さなパフェが入っていた。コーヒーゼリーとムースが二層に重なっていて、頂上の生クリームにローストされたアーモンドが散らされている。